「今死んでも構いません。人生100年なんてとんでもない」

 そう話す外資系企業勤務の女性(50)は、不調が日常になっている。つわりのような吐き気、片頭痛、月経痛、倦怠(けんたい)感、もの忘れ、睡眠障害……。

「よしの女性診療所」院長の吉野一枝医師によると、生活が不規則だったりストレスが大きかったりする人は症状が重くなる傾向が強いという。この女性も、勤務先で常に結果を問われている。悲鳴をあげる体に鞭打っての残業は月100時間に及び、シングルマザーとして子育ての責任も一身に負う。

 更年期でやっかいなのは、閉経には個人差があること。40代半ばで閉経を迎える人もいれば、50代後半で迎える人もいて、60歳で更年期症状があってもおかしくはない。

 一方、40歳前後の女性で心身の不調がある場合、更年期症状ではないかと心配する人も多いが、その場合は更年期ではなく、ストレスによる自律神経の乱れと月経前に不調が表れるPMS(月経前症候群)である可能性が高い。

 酒ジャーナリストの葉石かおりさん(53)が異変を感じたのは、30代半ばから。始まりはホットフラッシュだった。やがてコントロール不能な怒りの感情に翻弄(ほんろう)されるようになった。生理前になると、ささいなことでも、こめかみに血管が浮き出すほどの怒りが湧く。行く先々で口論が増え、人間関係が断ち切られていった。しまいには契約で仕事をしていた雑誌の編集部で編集長と大げんかし、即刻クビに。こんな性格じゃなかったのに、自分は一体どうしてしまったのか。途方に暮れた。

「まるで心の中に猛獣を飼っているような感じ。当時の夫にも怒りをぶつけてしまって関係が悪化し、離婚しました。今思えば更年期が始まりかけていたのかもしれませんが、夫は年下だったので、更年期=老いを認めるような気がして、どこかに恥ずかしいという気持ちがあったのかもしれません」(葉石さん)

 転機は、40代の初めに訪れた。以前から知り合いだった前出の吉野医師宅のホームパーティーで、ホットフラッシュが起きた。その姿を見た看護師から「あなた更年期なのでは?」と声をかけられたのだ。後日、吉野医師の診療所を受診すると、血液検査でエストロゲン分泌量が低下していることがわかった。

次のページ