「低用量ピルは、PMSや月経痛、子宮内膜症の治療に有効で、卵巣がんや子宮体がん、大腸がんなどのリスクを下げる効果もあります。ただし、血栓症のリスクもあるので、十分注意しながら使い、50歳前後でホルモン量が少ないHRTに切り替えていく。若いうちからピルを上手に使うことで、更年期も楽に乗り切ることができます」(吉野医師)

 一方で、ピルは処方しない、40代以降の女性には使わないという医師もいる。冒頭の翻訳業の女性の担当医は40代でのピル使用に否定的で、女性の持病であるぜんそくの薬とHRTの併用もしないほうがいいとの考えだ。そのため、女性は今のところ、薬による治療は何も行わず、不調に耐えながら日々をなんとかやり過ごしている。

 同じく前出の外資系企業勤務の女性も、薬による治療は行っていない。ホルモン剤の血栓リスクは低いとはいえ、どうしても気になってしまうという。

 患者により症状や体調、生活環境が異なるので、一概にこれが正しいという「正解」はない。

「仕事をしているか、専業主婦か、子どもがいるかいないか。個々の事情や価値観によって、どう生きたいかも変わってきます。医師はそれらを丁寧に聞き、どの治療法が選択肢になるのかアドバイスする。最終的に決めるのは患者さんご自身です」(同)

 更年期は、自分の人生で何を大切にするのか、改めて考えるいい機会でもある。もし、自分の価値観と医師の考えが合わなければ、別の医師を探せばいい。

 女性が更年期を乗り越え、自分を見失わずに人生の後半戦に立ち向かうために、必要なことがある。パートナーや同僚、ひいては社会全体の理解だ。

「更年期」という言葉には、現状ではネガティブなニュアンスがつきまとう。前出の翻訳家の女性はパートナーに更年期のことを話した。理解は示してもらえたが、時折、揶揄するニュアンスを込めて「あれ、なんか怒ってるけど更年期じゃないの」などと言われる。

「ものすごく腹がたつ。いたわってはほしいけど、何でもかんでも更年期のせいにするなって言いたくなります」(女性)

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