小田は東京藝大作曲科出身ながらも、詩と音楽のコラボレーション集団VOICE SPACEの一員として、また、先ごろファースト・フル・アルバムをリリースしたバンド、CRCK/LCKS(クラック・ラックス)のメンバーとしても活動。2013年に発表したファースト・ソロ・アルバム「シャーマン狩り」は菊地との共同プロデュースで制作されている。音楽の豊かな素養があり、方向性に応じて幅広く持ち札を繰り出せる小田は、菊地にとって、今最も信頼できる音楽家の一人と言っていいのだろう。
ニュー・アルバム「ミント・エクソシスト」は、エレクトロニカやテクノ、ファンクやヒップホップ、あるいはミニマル・ミュージックまで、様々なアングルからポップスの扉を優美にこじ開けていくような作品。
このユニットが誕生した90年代にはまだなかった「トラップ」のようなダンス・ミュージックの要素も垣間見えて、過去のSPANK HAPPYにはない多彩なアプローチが、ジャケットのピンク色さながらに鮮やかだ。
だが、過去のSPANK HAPPY、わけても2000年代前半に展開していた「第2期」と決定的に異なるのは、菊地が音作りを担い、女性ヴォーカルがそれを歌う、という単純構図ではなく、作詞作曲、音作り、アレンジなどほぼ全ての作業工程を2人で手がけているというところだろう。
菊地との年齢は20歳以上離れてはいるものの、小田が東京藝大出身ということもあり、役割分担を最初から明確に分けずに両者が対等に音を操作し合うような関係で作られた。
だから、オリジナル曲はもとより、アメリカを代表するアーティストであるベックの96年のヒット曲「Devil’s Haircut」や、菊地がプロデュースするシンガー・ソングライターの青羊によるユニット「けもの」の曲「tO→Kio」といったカヴァー曲も、PC同士でセッションして作り上げたかのように音に意外な跳躍力がある。
もっとも、このFINAL SPANK HAPPYでは、菊地はBOSS THE NK、小田はODと名乗っていて、まるでこの最終形態がアルター・エゴとして位置付けているかのようだ。