9月28日、阪神対横浜DeNAベイスターズの公式戦最終戦が行われた横浜スタジアムに来ていた50代の女性は、「攻撃中のビールがだめなんて考えたこともない、好きな時に飲めばいい」として、こうも言う。

「私は元・阪神の私設応援団なんです。白い手袋はめて、試合も見ずに、観客の方を向いて応援していました。選手の名前の入ったタオル持ったり、キャラクターのバッジ持ったりとか、そんなことは一切したことなかったけど、そんな私でさえ、『ああ、こういうのって、いいな』と思います。休日に、レジャーとして好きな球団を応援するって、すごい楽しい。私設応援団の時の私や、『にわかファン』的なものに対して厳しい人たちって、応援が『仕事っぽく』なってるんじゃないかなと思うんです。『応援することは、おれたちの仕事だぜ』みたいな。でも、私は今の方が楽しい。レジャーっぽくなって、何がいけないの? と思います」

 前出の道上さんも、阪神ファンは「ある頃から、確かに変わった」という。大きな背景としてあるのは、2009年にできた広島東洋カープの「マツダスタジアム」をはじめとする、各球団が近年進めてきた球場の「テーマパーク化」だと言う。

「たとえば、三塁側の内野スタンドの上に100人規模の会議ができる部屋があって、会議が終わって東側のドアを開けるとそこが球場のバルコニー席みたいになっているマツダスタジアムは象徴的ですね。他にもアベックが座れる席を設けたり、そんなことも『カープ女子』現象につながったのでしょう。一方、阪神も同時期に甲子園の大改修をして、スペシャルスイートルームを設けたり、若い層が来やすいようなプレゼントやグッズ、イベントも増やしたりし始めた。その頃から明らかに、ファンの質が、客層が変わってきましたね。野球の試合を、レジャーとして楽しみに来る人が増えた気がします」

 阪神ファンは本当に変わったのか。確かめに行ってきた。

 10月9日、クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第1戦。レフトスタンドは阪神ファンで熱気ムンムン。私の前には「読売粉砕 なめとったらいてまうど」というユニホームを着た、いかつい男性2人。おおおお、それでこそ阪神や!

 ただ、試合前、亡くなった元巨人の金田正一氏の追悼セレモニーで、場内全員起立を求められたときには、男性2人も「ワシらもかぃ(笑)」とぶつぶつ言いつつも重い腰を上げていた。スタンドの男女比は、驚くなかれ、目視では5:5。若い女性もすごく多い。赤ちゃんを抱っこした若い夫婦もいる。型破りで、「凶暴」でこそ阪神ファン。そんな先入観を持っていた記者からすると、確かに、意外なほどに「健全」な印象だった。

 ビールは、全員が立ち上がり、声をからして応援する阪神の攻撃中にはとても買える雰囲気ではなく、売り子も巨人の攻撃になるとサッと現れ、よく売れていた。ただ、ビジターの内野席では攻撃中にビールを買っている阪神ファンが普通に、たくさんいるのが見えた。やはり外野レフトスタンドは特別か。いちおう「ゆる~い阪神ファン」とは言え、東京ドーム外野レフトという「聖域」でのナマ応援は初体験の記者も、一気に引き込まれ、共に声を上げた。

 楽しい。いやー、ほんと楽しい。原稿? 忘れよう。んなもん、どうでもいい。ビールは3杯飲んでしまった。ほろ酔いの中、楽しければ、これはこれで、いいんじゃないの? と思ってしまったが……。

 たとえば、まったく野球のわからないおばあちゃんが、小学生の孫に手を引っ張られて甲子園に来る。そういうのも悪くない。

 ただ、本当に野球というゲームの中身を楽しむよりも、「イベントとしての楽しさ」を球団もファンもより追求しているようにも見える今の傾向については、「失いつつあるものも大きいのでは」と道上さんは釘を刺す。

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近年の阪神ファンに道上さんが伝えたいこと