SNSで高齢者への憎悪の言葉を目にすることは多い。自身で書き込むことはないが、彼らの心理は「正直、わかる」と。
「そうすることで若者が優位に立てるからだと思います。自分よりも下の存在を作ることでプライドが落ち着く、みたいな」
●レッテルを貼られた若者が、鬱憤を晴らすためにヘイト
SNSは<#老害>のように、差別的な感情も共有できる。自分の嫌悪感の正体が、この世界の誰かによって言語化され、それを自覚することでさらに嫌悪感が増幅していくのでは、と女性は言う。
一方で、高齢者へのネガティブな書き込みに、同じSNSできっぱりと異を唱える若い世代もいる。技術系の仕事に携わる20代の会社員の男性は、「高齢者を悪く言う人が多くてうんざりする。想像力が欠けているのでは」という趣旨をツイッターに書き込んだ。
違和感を覚えたのはやはり、4月の池袋の交通事故。会社の同期が「事故を起こした老人が死のうが知ったことではないから刑務所へ入れろ」と言っているのを耳にした。男性は反論した。だが同期は納得がいかない。
「自分が高齢者になったとき、親が高齢者になって、もし事故を起こしてしまったときを想像したことがないからでしょう。高齢者、現役世代という属性だけで『あの人は死んでもいい』『あの人は死んではいけない』と選別していることになり、とても危険な思想に感じる」
その背景には「ゆとり教育」や「若者の○○離れ」といった言葉も影響していると男性は指摘する。勝手にレッテルを貼られ、批判にさらされてきた結果、上の世代へのヘイトを募らせていった人も多いのでは、と。そしてこうも言う。
「これまでの鬱憤を晴らすために同じようにレッテルを貼って高齢世代を叩く、という構図が少なからずあると思います」
●みんな公平に不幸になれば、憎悪は消せるかもしれない
高齢者への負の感情がもたらす不穏な未来を、作品で表現する人もいる。
映画監督の早川千絵さん(43)。「10年後の社会」をテーマにしたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」(昨年11月公開)のうちの一本「PLAN75」で、75歳以上に国が安楽死を勧める特別支援制度「PLAN75」が創設された日本を描いた。きっかけは障害者施設の入所者19人が殺害された「やまゆり園事件」(2016年)だった。