顔が見えないSNSで激しくののしる。その言葉に共感し、拡散する。成長期を生きた世代と、成熟期に育った世代のはざまにある深い溝。そこに渦巻くのは、若年世代が高齢者に抱く疑念と憎悪だ。
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高齢者が未来ある親子を「殺した」ことに、怒りが溢れた。
<いい加減高齢者の運転は制限しようよ ジジババが若者殺してどうすんだ>
<高齢者許せない。信号無視とかふざけるな。これだから若者は老人嫌いになるんだ>
東京・池袋で4月、87歳(当時)の男性が運転する車が暴走し、母親と3歳の子どもが亡くなった事故。胸が締め付けられるような痛ましい現実に、SNS上には高齢の加害者を罵倒する言葉が並んだ。
ドイツ人作家のマライ・メントラインさん(36)は、ネット上のそんな状況を見て、こうツイートした。
<「自分の生活を支えている若年層を(おそらく不注意で)殺すとは何事か! どうせ金持ってるくせに!」的な怨念が強く感じられる点が印象深い。何かが噴き出している>
<「世代間憎悪」が今後、次第に深刻になってくるかもしれません>
そのマライさんのツイートにも、
<その罪を犯した高齢者はネット社会が抹殺すると思います>
などの返信が続いた。
警視庁はその後の調べで、運転していた男性がアクセルとブレーキを踏み間違えたと見ている。だが、この男性が逮捕されなかったことや、年金問題、終身雇用の行き詰まりを経済界が認めたことなどで、若い世代から高齢者への憎悪の声がSNSでさらに高まった感がある。そして、こんな言葉を頻繁に目にするようになった。
<#老害>
この事故に限らず、横暴な行為だったり若者を貶(おとし)めたりする老人の行動を意味する「老害」をハッシュタグにして、SNS上で共有する。
マライさんが現状を憂う。
「年寄りはリア充のまま幸福に死んでいきそうで許せない、みたいな感情が渦巻いていた。すでに下地がたまっていたのが、事故をきっかけに燃え上がったのだと思います」
マライさんは、とある県立高校でドイツ語の補助教員を週1回、8年間続けている。生徒たちと接する中で、思うところがあると言う。