「高圧的」「説明がおざなり」とこぼす患者。「説明しても理解しない」「間違った情報をうのみにする」と嘆く医師。医師と患者アンケートから見えてきたのは両者の深い溝だ。AERA 2019年9月23日号から。
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「患者が亡くなる時はいつだってつらい。けれど、その女性患者を看取った時の悔しさは、いまも忘れられない」
そう語るのは、福島県にある総合南東北病院の中山祐次郎・外科医長(39)。13万部を突破したベストセラー『医者の本音』の著者でもある。
数年前、50代の女性は腹痛を訴えて受診した。検査の結果は大腸がん。幸運なことに、すぐに手術をすれば治る段階だった。しかし、女性は詳しい理由を語ることなく、手術を拒否した。
「お金が心配ならなんとでもなります。手術は確かに怖いと思いますが、手術しないと、命を落とすことになってしまいます」
何度も説得を試みたが、やがて女性は姿を見せなくなった。1年後、再び彼女が診察室に現れた時、がんは転移し、取り返しがつかない状況になっていた。
「最初の段階で、どう伝えればよかったのか。今も時々考えます」(中山医師)
アエラは、医師専用コミュニティーサイト「MedPeer(メドピア)」の協力を得て、がんや心疾患など重篤な病気の診療経験がある医師520人にアンケートを実施した。
その結果、半数近くが中山医師と同様、「患者の理解不足や誤解によって医学的に最適と考える医療を提供できなかったことがある」と回答した。
「単発の転移性脳腫瘍で前医から手術目的の紹介状をもらってきた患者さんが、テレビの健康番組の影響で放射線治療を求めドクターショッピング(=医療機関を次々と受診すること)を開始。ようやく摘出手術をした時点で腫瘍は増大しており、半年後に亡くなった」(脳神経外科勤務医・北海道)
「高血圧で、降圧剤を服用すれば簡単にコントロールできるレベルなのに、服薬を拒否し、数カ月後に亡くなったり、障害者になる症例を時々経験する」(一般内科開業医・東京都)