アエラは患者にもアンケートを実施し、100人超から回答を得た。双方のアンケートから見えてくるのは、医師と患者の間に横たわる深い溝だ。
溝には大きく分けて2種類ある。一つ目は「説明」を巡る認識の溝だ。
アンケートでは「いい医師の条件」として、医師、患者双方が「説明が丁寧」を挙げた。患者では全要素でトップ、医師では「多岐にわたり医療知識が豊富」「コミュニケーション能力が高い」に次いで3番目だ。
だが、これまで出会った「困った患者」「不信感を持った医師」を見ていくと、「説明」の捉え方が微妙にずれていることがわかる。例えば医師が、「噛み砕いて説明しているのに、理解してくれない」「いくつもの選択肢を示しているのになぜ選べない?」と考えているのに対し、患者は「説明が早口でわかりにくい」「いきなり選べと言われても困る」と、全く別の感じ方をしている。
患者側には「説明がぶっきらぼう。怖くて何も聞けない」「パソコンの画面ばかり見てこちらを見ない」といった医師の「態度」への不満もくすぶる。「かかりたくないと思う医師」は、ダントツで「高圧的な医師」だ。
二つ目は、医師が勧める治療法への不信感が強いケース。医師アンケートでは、抗がん剤やステロイドなど特定の治療法に強い拒絶感を示す患者や、ネットやテレビ・雑誌の健康情報をもとに治療法を勝手に自己流に変える患者、民間療法に頼る患者の事例が数多く寄せられた。
こうした溝はなぜ生まれるのか。溝を埋めるために、医師ができること、患者ができることは何か──。
まずは「説明」を巡る溝から考えていこう。大竹文雄・大阪大学大学院経済学研究科教授は、共著書の『医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者』のなかで、溝が生じる要因を行動経済学の視点から分析している。
行動経済学とは、人間は時として非合理的な行動をとることに注目した新しい経済学だ。伝統的な経済学は「すべての選択肢とその結果を考慮し、最善の結果を得るよう意思決定する『合理的経済人』」をモデルとしてきたが、大竹教授は、それは医療分野にも当てはまるという。