【スーツからTシャツに変わりマインド変化】富士通→FlyData 内海晃さん(うつみ・あきら、38)/出向初日スーツで出勤。場違いだと悟り「ベンチャーっぽい」服を慌てて買い込んだ。今ではフラットなコミュニケーションやベンチャー用語も板についた(撮影/編集部・石臥薫子)
【スーツからTシャツに変わりマインド変化】富士通→FlyData 内海晃さん(うつみ・あきら、38)/出向初日スーツで出勤。場違いだと悟り「ベンチャーっぽい」服を慌てて買い込んだ。今ではフラットなコミュニケーションやベンチャー用語も板についた(撮影/編集部・石臥薫子)
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【専門は生化学 出向先は工学系 財務にも挑戦】アサヒクオリティーアンドイノベーションズ→テレイグジスタンス 鐺史晶さん(こじり・ふみあき、31)/入社以来ずっと茨城県守谷市の研究所勤務。出向先は東京・虎ノ門にあり、エンジニアの大半は外国人。一変しそうな生活に今からドキドキしている(撮影/編集部・石臥薫子)
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「大企業病」を打破するイノベーション人材は、社内に囲っていても育たない。社員をベンチャーで武者修行させる「他社留学」に積極的な企業が増えている。

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 新規事業や組織変革の中心となれる人材を育成したいという大企業と、即戦力や組織づくりの助っ人が欲しいベンチャー企業。両社を結びつけるマッチングサービスの登場が、「他社留学」を加速させている。草分けは15年から「レンタル移籍」を始めたローンディール。制度の利用者は累計28社68人(10月からの移籍予定者を含む)、受け入れ先のベンチャー企業の登録数も240社に及ぶ。

他社留学で多いのは管理職クラス。AIによるデータ分析を手がけるFlyDataに富士通から出向中の内海晃さん(38)も、その一人だ。武者修行を「次世代リーダー育成の場」と位置づける富士通が、トライアルの1例目として白羽の矢を立てた。

 6月の着任早々、内海さんはスタッフ8人の東京オフィス(本社は米国)の営業・マーケティングの責任者になった。「ボードメンバー(取締役)のつもりで関わって」と要望された。内海さんが言う。

「部外者の私にそこまで任せてくれるのだから身も心も捧げようと決意しました」

 しかし、始まってみれば苦戦の連続。最初は「ピッチ」(投資家へのプレゼン)や「CVC」(大企業がベンチャー投資のために設立する組織)といったベンチャー業界の用語すらわからなかった。何より自分の判断が即、会社の方針になるプレッシャーに心が折れそうになる。

「この2カ月、自分を鼓舞し続けています」(内海さん)

 そんな人生を変える挑戦の場に飛び込む直前という人もいる。アサヒビールグループの先端研究を担う子会社、アサヒクオリティーアンドイノベーションズの鐺史晶(こじりふみあき)さん(31)だ。同社人事総務部の松田陽平さんは、出向させる狙いをこう話す。

「研究者が研究だけしている時代は終わった。今後は、新規事業の種を素早く見つける目利き力、財務なども含めた事業化のノウハウを併せ持ち、パートナーとなる社外のベンチャーのことも肌感覚でわかる人が必要」

 大企業の人材をベンチャーに出向させる「レンタル移籍」を提供するローンディールによると研究開発部門の人材育成を急ぐ企業がいま急増しているという。

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