2023年のWBCで、侍ジャパンを14年ぶりの優勝に導いた大谷翔平(28)。打率4割3分5厘、防御率1・86と投打にわたる活躍を見せ、大会MVPに輝いた。世界が注目した「リアル二刀流」を、米国の野球ファンはどのように見ているのか――。大谷翔平の番記者経験もある在米ジャーナリスト・志村朋哉氏の著書『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』(朝日新書)には、現地ファンとの知られざるエピソードが描かれている。WBC優勝の立役者となった大谷をめぐる“ドラマ”の一端を、一部抜粋・編集して再掲載する。
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大谷が記念すべきメジャー初本塁打を放ったのは、2018年4月3日、本拠地での初打席だった。打者・大谷の「ホームランショー」の幕開けだったとも言える。
そのホームランボールを最初に手にしたのが、外野席最前列で観戦していたクリス・インコーバイアさん。彼はその歴史的なボールを拾い、ちゅうちょなく隣に立っていたエンゼルスファンの男の子に譲った。3年ぶりに記念球に関わった二人に連絡をとり、ホームランの瞬間や大谷との面会を改めて振り返ってもらった。
オハイオ州クリーブランド出身のインコーバイアさん(36)は、物心ついた時から地元インディアンズの熱狂的ファンだった。今はフロリダ州タンパで高層ビルの建築技術者として働いている。
大谷が初ホームランを打ったエンゼルス対インディアンズの試合は、ちょうどロサンゼルス出張と重なっていたため、「これは行くしかない」と奮発して右中間スタンド最前列の席をとった。試合の直前まで、大谷については「ほぼ何も知らなかった」と言う。
一緒に観戦した同郷かつ同僚であるアダム・ジーアックさん(37)に、「二刀流のすごい選手がいる」と説明を受けた。「ベーブ・ルースのような、もしくはそれ以上の存在になり得る。現代野球で彼ほどの可能性をみせた選手はいない」と。
1回裏、走者二、三塁という場面で、大谷はホームランを放った。オープン戦での不振を忘れさせるような強烈な当たりだった。