森田真生さんによる『数学の贈り物』は、2014年からミシマ社のウェブ「みんなのミシマガジン」で連載した「数学の贈り物」に加筆・修正した19篇の随筆集。著者の森田さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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森田真生さん(33)は数学を緒(いとぐち)に「人生とは何か」「よりよく生きるとは」という根源的な問いを考える研究者。よくこう話す。
「英語のmathematics(マスマティクス)は古代ギリシャ語のta mathemata(タ マテーマタ)からきていて、初めから知っていたことを改めて知るという意味があるんです」
身近にあるがゆえに気づかない大事なことを、きちんと自覚してつかもうとすることが、mathematicsという言葉の原義だという。だからなのか。それまで数字や図形や方程式との闘いだと思っていた数学の世界が、森田さんが語り始めると、宗教や哲学、文学、科学と、あらゆる世界へ広がっていく。
新刊『数学の贈り物』は、さらに森田さんの思索が自由に飛び回る。
3年前に息子が生まれた。それまではあらかじめテーマを決めて、入念に下準備をしながら原稿を書いていたが、予定外の事態に巻き込まれ続ける子育ての日々のなか、それまでの方法に違和感を覚えはじめた。
「何を書くか考えずに、流れに身を任せて書いてみようと思いました。何も準備しないで、自分の言葉だけで書くというのは頼りないんだけど、まずは自分で立って、自分の実感と言葉で書いてみようと」
そうして生まれたのが本書の「白紙」というエッセー。以降、京都での生活や息子への思い、数学者の岡潔についてなど、心の向くままペンを走らせる。息子と一緒に公園に行くことで、孟子の一節を思い出し、重力波の観測のニュースに興奮しながらも「最先端」だけを追う価値観に危機感を覚える、というように。
「白紙」に対する思いは、装丁にもこめられた。
「この白紙の白色は漂白された白ではなく、色々なものが集まって、最終的にたどり着いた白にしたいとデザイナーの寄藤文平さんと話し、そのコンセプトを装丁に落とし込んでくれました」