複雑な家庭で育った。複数の住民によれば、岩崎容疑者は約40年前、両親の離婚をきっかけに、父方の兄である伯父宅に預けられた。それが現在の自宅だ。現在は伯父、伯母と3人暮らしだが、移り住んだ当時は伯父の子、つまりいとこ2人も家にいた。先の80代の女性は続ける。
「りゅうちゃんと呼ばれ、3人で遊ぶ姿を見たことがある」
一方、この家族をめぐるこんな話も出てきている。
「いとこの1人がカリタス学園に通っていたらしい」
家族関係がうまくいかず、その恨みを引きずっていたのか。今ではもう本人に確かめる術もなくなってしまった。
岩崎容疑者は長期間働いていなかったという。一緒に住む伯父、伯母とも会話がなく、2人がいる時間帯は台所や風呂にも姿を見せないなど、いわゆる「引きこもり」に近い状態だったとみられる。そんな岩崎容疑者の身辺に最近、ある異変が起きていた。
川崎市は29日、岩崎容疑者の伯父、伯母ら親族から計14回にわたり相談を受けていたことを明らかにした。伯父らは昨年6月から訪問介護のサービスを受け始めたが、サービス開始前、自宅に介護サービスが入ったときに岩崎容疑者がどんな反応をするかを心配して市に相談したという。
市によると、伯父らの不安をよそに、岩崎容疑者が訪問介護のスタッフらとトラブルを起こすことはなかったという。
「(岩崎容疑者に)手紙を書いて、コミュニケーションを試みたらどうですか」
今年1月、伯父と伯母は市精神保健福祉センターのそんな勧めで、岩崎容疑者の部屋の前に手紙を置いた。すると数日後、岩崎容疑者はこう言い放ったという。
「洗濯、買い物など自分のことはちゃんとやっている。自分で好んでこの生活をしているので、引きこもりのような状態ではない」
岩崎容疑者はその4カ月後、4本の包丁を持って家を飛び出した。自宅から最寄りの読売ランド前駅までは、傾斜のきつい下り坂が続く。あの朝、岩崎容疑者はどんな思いでこの坂道を下っていったのだろうか。(編集部・澤田晃宏、川口穣、深澤友紀)
※AERA 2019年6月10日号より抜粋