バスを待つ児童らが刃物で襲われ、小6の児童と保護者が死亡した現場付近/5月28日午前8時44分、川崎市多摩区、朝日新聞社ヘリから (c)朝日新聞社
バスを待つ児童らが刃物で襲われ、小6の児童と保護者が死亡した現場付近/5月28日午前8時44分、川崎市多摩区、朝日新聞社ヘリから (c)朝日新聞社
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過去に起きた主な無差別殺傷・傷害事件(AERA 2019年6月10日号より)
過去に起きた主な無差別殺傷・傷害事件(AERA 2019年6月10日号より)

 川崎市多摩区で起きた19人の死傷者を出した事件は、岩崎隆一容疑者が自殺したことで多くの謎が残ったままだ。犯行に至った経緯とは何だったのか。

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「普段から通学途中の子どもたちのしゃべり声は聞こえていましたが、尋常じゃない声に家を飛び出しました」

 5月28日、川崎市多摩区の路上で登校中の児童らが襲われ、19人が死傷した事件。現場近くに住む20代のアルバイト男性の目に飛び込んできたのは、小学生と、ワイシャツを着た社会人風の男性が血を流して倒れている光景。亡くなった小学6年の栗林華子さん(11)と、同校に通う子どもの見送りにきていた外務省職員の小山智史さん(39)だった。

 事故にしては様子がおかしい。一度自宅に帰り鍵を閉め、再び路上に戻ったのは午前8時前。市バスの停留所の前に、黒のTシャツに黒いズボンをはいた坊主頭の男が、首から大量の血を流して倒れていた。身長は170センチ程度。がっしりした体形に見えた。それが、岩崎隆一容疑者(51)だった。

 現場は、JRと小田急の登戸駅から西に約250メートルの住宅街。襲われたのは、同区内にあるカリタス小学校のスクールバスが止まるバス停に並んでいた児童らの列だった。

 同じく現場に遭遇した男子大学生は、こう振り返った。

「犯人の男は血の海のなか。小学生の女の子が『お母さん』などと叫んでいた。壮絶でした」

 同小を運営するカリタス学園は事件当日、緊急の保護者会を実施。系列の幼稚園から高校までの保護者1200人が集まった。保護者会を終え、高校に娘を通わせる父親が心情をこう絞り出した。

「小学生への無差別殺人事件と言えば、『池田小事件』を思い出します。ただ、犯人の宅間守(元死刑囚で2004年に執行。当時40)は事件後の裁判などで犯行に至る理由が明らかになりましたが、岩崎容疑者は自殺した。これでは、圧倒的な不条理だけが残ってしまう」

 池田小事件が起きたのは01年。宅間元死刑囚が出刃包丁を持ち、大阪教育大付属池田小学校に侵入。8人の児童が死亡したほか、教諭2人を含む15人も重軽傷を負った。

「エリート校の子どもをたくさん殺せば、確実に死刑になると思った」

 宅間元死刑囚は事件後、そう動機を語った。事件は、離職や離婚を繰り返す思い通りにならない自身の人生の対極にあるエリート層への、身勝手な「怨恨」とも見られた。

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