老化を制御し、若返ることができるのは「夢物語」と考える人も多いだろう。しかし近年、研究が進み、「老化を治療する」時代も視野に入りつつある。がんや動脈硬化、白内障といった加齢性疾患の元を断つ最新研究とは。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。
【写真】内閣府の事業で「眠り」をテーマにした研究を行う柳沢正史教授
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老化細胞を除去して健康寿命を延ばす──。これは2040年を目標に、日本発の破壊的イノベーションの創出を図る内閣府の「ムーンショット型研究開発事業」のプログラムの一つに位置付けられた国家プロジェクトだ。プロジェクトマネジャーを務める東京大学医科学研究所の中西真教授(62)は言う。
「老化細胞を取り除くことで老化の大きな要因を排除できれば、がんや動脈硬化、高血圧、白内障といった加齢性疾患の元を断つことにつながる可能性があります」
■酵素の働きをブロックして老化細胞を取り除く
中西さんらは21年、生体内の多様な老化細胞を取り除く老化細胞除去薬の候補として、「GLS1阻害剤」の効果を示す論文を米国の科学雑誌「サイエンス」に発表し、世界の注目を集めた。
そもそも人はなぜ老いるのか。老化の原因の一つとされるのが「老化細胞」だ。体内では約37兆個の細胞が分裂を繰り返している。このうち、不老不死に近い「幹細胞」を除いた多くの細胞は50~60回ほどしか分裂・増殖ができない。限界まで分裂した老化細胞の一部は体内のあちこちに蓄積される。それらの老化細胞が炎症物質を分泌することで臓器や組織に引き起こされた慢性炎症が加齢性の疾患や症状に表れる、というわけだ。
中西さんらは、老化細胞が体内で「GLS1」という酵素に依存して生き延びていることに着目。この酵素の働きをブロックして老化細胞を取り除く「GLS1阻害薬」が生体内で老化細胞を除去できることを見いだした。実験では、GLS1阻害薬を投与したマウスの老化細胞が減少していることを確認。腎機能の低下や肝臓の炎症、肺の線維化、動脈硬化などの症状も改善していた。老化細胞を除去した老齢マウスが棒につかまっていられる時間は3倍強の約100秒まで延びた。これは70代相当だった人が50代相当にまで体力が回復したのと同等という。