小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が発売中
この記事の写真をすべて見る
4月は新生活シーズン。大学で学んだことだけが人生を決めるわけではない (c)朝日新聞社
4月は新生活シーズン。大学で学んだことだけが人生を決めるわけではない (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

*  *  *

 高2の長男は、今年から勉強に身を入れ始めました。オーストラリアでは、大学進学を目指す生徒は高3の秋にATAR(エイター)という試験を受けます。ATARのスコアで入れる大学が決まるのです。例えばATARのスコアが90だったら、全体の90パーセントの受験生よりも得点が高かったということ。「スコア90ぐらいまでは凡人でも努力でなんとかなるけど、95よりも上はちょっと別世界」と言われたりもします。

 高校では大学進学と専門学校進学でコースが分かれ、大学進学コースに進んだ子は高2から一気に勉強量が増え、自宅でも毎日2時間、高3になったら最低でも3時間は勉強するように言われます。ATARに向けてこまめに進路指導や保護者面談が行われ、一気にお勉強態勢に。

 とはいえ、日本の受験ほど鬼気迫る感じではないのでそれなりに高校生活をエンジョイしていますが、長男も顔つきが変わりました。静かにしているなと思うと机に向かっています。親としてはつい、これで将来が決まるのだから!と励ましたくなりますが、私の周りにはいろんな経歴の人がいるので、大学進学では人生決まらないよなあ、とつくづく思います。

 先日も、物理を専攻して航空会社のエンジニアになり、転職して政治記者になった人や、ビジネスで学位を取ったものの就職難で志望企業には入れず、1年のつもりで日本で英語教師になったらそのまま起業し、気づけば20年以上になるアメリカ人の知人と話をしました。二人とも今の仕事にやりがいを感じていて「これでよかった」と。

 進学は人生の通過点。ベストを尽くした経験はそれだけで財産だし、そこで出た結果が全てを決めるわけではありません。出会いや偶然が想像もしなかった場所に連れていってくれるもの。長い目で応援したいです。

AERA 2019年4月22日号