「3人以外でも、マラソンで活躍した女子選手の多くは、高校時代まで無名の選手ばかり。それぞれが練習量をこなせる体格やメンタルを兼ね備えた時期になってから、競技成績も上がるようになった。要するに後伸びしたランナーだ。今は中高でやりすぎる。鉄剤注射の影響もあるかもしれないが、選手を精神的、肉体的にバーンアウトさせている。指導者たちは一生懸命ではあるが、正しい知識と認識、愛情を持ってほしい」
そんな中高のやりすぎの背景には、社会的な問題が横たわる。
中高時代にいい成績を上げれば、大学進学や就職への道が開かれる。競技結果による推薦入学や入社といった社会の仕組みがある限り、当事者である選手やその親、そして教え子の進路が自身の評価に直結する指導者は勝利に向かって血眼になるに違いない。
実際に、前出のスポーツ医は全国高校総体(インターハイ)前、「疲労骨折だから、出たらもう走れなくなるよ」とドクターストップを下した女子選手からこう言われたことがある。
「インターハイに出て良い成績が出せれば、走れなくなってもいいです」
選手たちも目標はそこだと教育されているのかもしれない。
都内で公立中学校陸上部の顧問を務める40代の男性教師は「若い指導者は非常に勉強熱心。新しいトレーニングを入れるし、食と貧血、月経、骨が密接にリンクすることもよく知っている。ただ、ベテランの指導者に問題が多いのは確か。中学校でも注射の使用のうわさは絶えない」と話す。指導の質が二極化していることがうかがえる。
男性は、生徒には定期検査をさせるが、貧血状態になればすぐわかるという。
「顔が青白くなる。動きが悪くなる。目に輝きがなくなる。走ることが楽しそうではなくなる。数値に出ていなくても、気づいたらすぐに休養させる。本人が嫌だと言ってもそこを諭すのが指導者の役目です」
こんな指導者が増えてほしい。中高生に本当に必要なのは、大人たちの「正しい愛情」ではないか。(ライター・島沢優子)
※AERA 2019年3月18日号より抜粋