一昨年、2人目の子どもが生まれるのを機に転職。同じビル管理業の仕事だが、新しい職場には、がんのことも全て伝え、

子育ての手伝いもしたいので、定時に上がれる仕事を希望します」

 と正直に話した。特殊な業務を熟知している前職の経験が買われた。

「もちろん、がん治療中はフォーメーションを組み直して同じ職場で働き続けられるのが一番いい。でも、職場によっては、いくら期待しても、人繰りがかなわない場合もある。僕は若干、年収は下がりましたが、会社の理解度と働きやすさがあるから、今は転職して正解だったと思っています」(関さん)

 昨年、カルビー(東京都千代田区)の執行役員・人事総務本部本部長に就任した武田雅子さん(50)は、クレディセゾンに勤務していた36歳の時に乳がんを発症。治療と仕事を両立していた経験があり、人事のキャリアも長い。治療による休職時に、職場の人に自身の仕事を肩代わりしてもらうのを躊躇(ちゅうちょ)する人もいるという。

「私が担当するはずだった業務を上司が受け持ってくれ、急場をしのぐことができました。電話で主治医から告知を受け、すぐに受診しなければならなかったので。申し訳なさが先に立つ気持ちはよくわかる。女性が産休に入る時も同じだと思います。そういう方に、『あなたは今、これまでためてきた信頼貯金を使うタイミングなんですよ』と言うようにしているんです」

 ちょっとした「配慮」が、いい循環を生んだ事例がある。

 化粧品大手のコーセー(東京都中央区)の本社に勤める40代の女性は、16年に乳がんで片側の乳房を全摘した。

 女性は、抗がん剤治療の間はラッシュ時を避けて通勤するため、早朝の当番制の仕事に影響が出ることを考え、診断結果が出てすぐ、同じ部署の人にはオープンにがんのことを打ち明けた。治療の見通しも伝えた。ただし、抗がん剤で口内炎がひどくなったり、投与した直後に具合が悪くなったりした時は、変に気遣われないよう、人事部所属の保健師がいる医務室でつらさを打ち明け、時には小一時間休ませてもらうこともあった。

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