小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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ジェンダーの問題は、6月のG7サミットでも取り上げられていた(撮影/代表撮影)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「ジェンダー主流化」とは先日のG20ブエノスアイレス首脳宣言に盛り込まれた文言。すべての分野で女性の視点を取り入れた政策作りを進めるという宣言です。

 世界の半分を占めるのにこれまで少数派扱いされてきた女性の抱える課題を、全ての政策に反映しようというのは大きな進歩です。でも世界の半分もいるのですから、女性もいろいろ。誰の意見をもって「女性の視点」と言えるのか、細かく考えるとなかなか難しいですね。翻って「男性の視点」ってやつを考えてみると、これまたいろんな人がいるのに誰が男性代表なの? という疑問にぶつかります。

 これまで欠けていたのは、政策決定をする人たちにとってさほど優先順位の高くない課題を抱えている人たちの視点。女性の視点を生かした政策とは、解決するべき課題の幅を広げ、当事者の数を増やして、より多くの人が恩恵を受けられるような工夫を凝らした政策ということができると思います。

 例えば男女の賃金格差がなくなれば女性の所得が上がり、所得の低い男性でも共働きで家庭を持てます。育児しながら働きやすい職場は介護や通院をしながら働く人や高齢者にとっても働きやすいし、保育施設の充実は子育てしている男性にも恩恵がある。性差別や性暴力をなくすことは、性的少数者にとって安全な環境を整えることでもあります。

 女性の視点とか女性の権利というと「男性差別だ」「女性優遇だ」と批判する人がいるけれど、これまで狭かった政策決定者の視野を広げる措置だと思えば、自分にだって恩恵があるかもしれないんですよね。

 同様に、ジェンダー規範や働き方など女性と共通する課題を抱えた男性がそばにいるのに「お前たちの生きづらさなんか、私ら女の痛みに比べたらちっぽけだ」と言うのも不毛です。

 女性の課題について、女性以外の人も当事者意識を持てるようにする工夫が必要だと思うのです。仲間が増えれば声が大きくなり、政策の優先順位も高くなるのですから。

AERA 2018年12月24日号

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