ブラック残業が問題なのは、教員の心身をむしばむからだけではない。本来の業務である授業に力を割けず、教育の質の低下に直結するからだ。斉藤さんはSNSを通じて集めた給特法改正を求める署名3万通超を、12月4日、文部科学省と厚生労働省に提出する予定だ。

「2020年度から新しい学習指導要領が始まりますが、このままでは破綻する。諦めずに訴えていきます」(同)

 教員たちがSNSで声を上げ、繋がり始めた。「前例踏襲」の空気が変わり始めている。

 30代の男性中学教員が始めたのは「時短」という働き方だ。周囲には女性教員も含め時短勤務はゼロ。そんな中で、給特法が生み出した、学校現場の「時間意識の欠如」を変えたいと考えている。

 きっかけは子どもの誕生だった。平日から帰宅は遅く、土日も部活で家を空ける。ある日、共働きの妻の異変に気づいた。ワンオペ育児に疲れ果て、表情が失われていた。男性は管理職に時短勤務を申し出た。

「そんな権利を申請すると、この学校にいられなくなるぞ」

 返ってきたのは脅し文句。だが男性はひるまなかった。勤務は8時15分から13時10分までで給料はフルタイムの約半分。担任は持っておらず、管理職からはいまだに嫌みを言われる。

 ただ、変化の兆しも感じている。これまで出退勤管理は出勤簿に印鑑を押すだけで、勤務時間は把握されていなかったが、働き方改革の流れで、最近パソコンで出退勤時間が打刻されるようになった。

「管理職も教員自身も時間意識がないために業務の見直しが進まず、多忙で苦しんでいる。そこに気づいてほしいんです」

 学校を不自由にするルールと奮闘する教員もいる。都内の公立小学校に勤める20代の女性教員は、「晴れの日の休み時間は必ず外で遊ぶ」「給食は決められた量を必ず食べる」などのルールについて、子ども自身が判断できるようにしている。教室に教科書などを置いて帰る「置き勉」も、今年9月に文科省が容認の通知を出す前からOKとした。

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