「僕のスケートのルーツは、たどっていくとロシア」
「自分らしく」がテーマの今季。プログラムに選んだ曲は、SPもフリーもいずれもロシアと縁が深い。フリーは子どもの頃から憧れてきたロシアのエフゲニー・プルシェンコがかつて演じた「ニジンスキーに捧ぐ」のアレンジ版。だからこそ、
「ここで良い演技をしたいなっていう気持ちが強い。ロシアのファンの方々に喜んでもらえる演技がしたい」
SPは元全米王者ジョニー・ウィアーの代表プログラム「秋によせて」。元の振り付けをしたのは、会場にも訪れていたロシアのタチアナ・タラソワ氏だ。
とはいえ、右足首に無理を重ねれば長引く可能性は高い。昨季は12月の全日本選手権を欠場。今年2月の平昌五輪では金メダルをさらったが、3月の世界選手権は回避せざるを得なかった。だが、決断は早かった。
「(自分は)何がしたくて、何を削るのか」
午後1時50分すぎ、ヘアスタイルを本番モードに整えて、再び会場入り。痛み止めを服用してリンクに上がると、狙っていた構成を柔軟に変えていった。
変更後の演技プランは、転倒した直後に氷上ですでに練ってある。実は、「何かを考え込むように」リンクを数周回ったのは、ジャンプの構成のイメージを作り直すためだった。冒頭、右足に負担のかかる4回転ループをサルコーに変更。後半に組み込んでいた超高難度の4回転トーループ-3回転半(トリプルアクセル)も跳ばなかった。
「やったことのない構成もあって難しかった」
と言う通り、得意なトリプルアクセルで転倒するなど精彩は欠いた。だが、痛む右足を抱えての4分間を終え、フィニッシュの姿勢のまま羽生は、「頑張った!」と自らをたたえた。
167.89点。2位に10ポイント近い差をつけ、SPの貯金に頼ることなくリードをさらに広げて合計278.42点でGPシリーズ自身初の連勝(ファイナルを除く)と、日本男子単独最多となる通算10勝目(ファイナル含む)を勝ち取ってみせた。
ただ、納得の内容ではないことは本人が一番分かっている。