逆境から這い上がる姿に、再び世界が震えた。フィギュアスケート男子のGPシリーズロシア大会。公式練習で古傷を痛めた羽生結弦は、それでも渾身の演技を見せ、優勝を勝ち取った。
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痛恨のアクシデントが羽生結弦(23)を襲ったのは、11月17日午前8時20分からの男子第2グループ公式練習だった。
フリーの曲「Origin」に乗せて滑りだしたが、冒頭の4回転ループで右足着氷に失敗、転倒した。氷上に伏せたまま、しばらく立ち上がれない。そして、何かを考え込むようにゆっくりとリンクを数周。まだ曲がかかる中でスタンドに頭を下げ、練習を先に切り上げた。
右足首を痛めたのだ。
直後、アイシングを施した右足を引きずって宿舎行きのバスへ。報道陣の「大丈夫ですか?」との声に、硬い表情のまま「大丈夫です」とだけ答えた。
前日にあったショートプログラム(SP)は、今季世界最高得点となる110.53点をマークして首位発進。いつも自分に厳しいはずの羽生が、こう語るほどの演技だった。
「ノーミスと胸を張って言えるくらい。この構成では実質ほぼマックス(の点数)」
さらに、「SPとフリーをそろえてなんぼ」と自分に言い聞かせた。その勝負のフリーを目前にした怪我だった。
状況は危機的と言ってよかった。右足首は昨年11月のNHK杯の公式練習でも負傷した古傷だ。医師の診断は「3週間の安静」。「いま滑れば悪化する」とまで釘をさされたという。
それでも、モスクワのリンクで滑る理由が羽生にはあった。
会場のメガスポルトには、特別な記憶が詰まっている。
「初めて来た時はシニアに上がったシーズンだったんですけど、その時にファン投票みたいなものがあって。ロシアのファンの方々に選んで頂いた記憶があって、すごくうれしかった」
シニアデビュー2年目の2011年11月、16歳だった羽生がGPシリーズ初制覇を飾ったのも、この場所だった。
だから羽生は言う。