携帯電話会社で残るau(KDDI)はまだ積極的な動きを見せていないが、参入の可能性は大いにある。実は同社には「auライフデザイン」というサービスがすでにある。これは通信に加え金融やエネルギー、教育などの生活サービスを提供するもの。これらで得たデータを活用すれば、より精度の高いスコアリングが可能となるはずだ。「日本版」信用スコアは、もくろみどおり根付くのだろうか。
消費者の立場で考えると、日本では現金主義が根強くキャッシュレスへの心理的抵抗が残っているのに加えて、個人情報の活用への忌避感がある。13年、JR東日本がICカード乗車券スイカの利用者の行動履歴データを、日立製作所に販売していたことが明らかになった。売られていたのは、乗降駅、利用日時、利用額、年齢、性別など。販売されたデータに個人の特定につながる情報は含まれていなかったが、プライバシーの保護や消費者意識に対する配慮に欠けているのではないかと大きな批判を浴びたことで、JR東日本はわずか1カ月で販売中止に追い込まれることになった。
いったん個人情報の漏洩を起こせば、企業は厳しい批判にさらされる。それゆえ、どの「信用スコア」サービスも、利用者の許諾なしにスコアの作成や第三者への提供は行わないと口をそろえるが、不安を払拭するには至っていない。
しかし情報漏洩が怖いからといって、ネットを使わないというのも難しい選択だ。キャッシュレスの利便性と個人情報保護の両立は難しいのだろうか。
その解決を目指すために設立されるのが、政府が「情報銀行」と呼ぶ管理機関だ。三菱UFJ信託銀行は、19年にも、個人から購買履歴などの個人情報を預かり、民間企業に提供するサービスを始めると発表している。
これにより、個人は企業が求めるデータの種類や利用目的を精査したうえで、提供するかどうか決めることができる。データを提供する個人は報酬を得られる仕組みだ。ある通信会社で個人情報保護に関わる社員はこう明かす。
「情報銀行は、GDPR(EUの一般データ保護規則)が登場するなか、個人情報を自分でコントロールできる『データ・ポータビリティー』の時代になって、それを支援するために生まれたものです。ある意味、『丸裸』にされそうな消費者を守るために、個人情報を預かる駆け込み寺のような存在だったはずです」
ところが、と社員は続ける。
「日本では個人情報を高く売る商売の話しか聞こえてきません。これでは本末転倒だと思います」
実際のところあまり期待はできないようだ。やはり最後の頼みは個人の力ということになる。必要なのは、われわれ消費者が、自分の身を守るために、どんな
策を講じられるかだ。(消費生活ジャーナリスト・岩田昭男)
※AERA 2018年11月26日号より抜粋