笈田:東出さんは舞台が約3年ぶりだそうですね。映画やテレビとどう違います?
東出:前回の舞台とも違うのですが、今回発声がまず大きく違うと思いました。マイクを一切使いませんし、壇上にも置かないそうなので、観客数が470近い劇場で地声です。映像作品では、その熱量ではもちろん演じないのですが、共通点もあります。生きるということ。相手の話に反応すること。だから、切り離して考えすぎると全く違うところへ行っちゃうので、共通点はあると思いつつも足りないところを急ピッチで補填していく感じかなと思っています。
笈田:僕の年になるとね、こう見せたいというのはないんですよ。ただとにかく舞台に上がったら、ここは右向く左向く?とか、相手がゆっくりセリフを話すから僕は早く喋らなくてはいけないとか。そんなことをやっているだけでお客さんにどう見えるかなんてあんまり関係ない。
東出:(深くうなずく)
笈田:つまり、瞬間瞬間の反応で、後はそれがどう見えようがどういう人物かというのはよくわからない。自分のこともどういう人間かよくわからないのに、どうして役柄のことがよくわかる? 自分なんてないんですよ。映画の場合は監督が料理人です。いくらいい料理人でもいい食材がなければいい料理はできない。だから、役者は監督のためにいかに良い食材を提供するか。でも、舞台ではカメラアングルを決めるのは役者だし、テンポは自分で作らなければならない。舞台に出るまで自分がどういう演技をしたらいいのかわからなくても、お客さんの空気でどう演技すればいいかわかります。
東出:話を伺っていると、舞台での演技は日々変わるものなんだろうなと思います。決め切ってこれだけをやればいいというのは生きていることにはならない。ある程度嘘をつかなければいけないところもある。
笈田:役者が日常のまねをするだけならドキュメンタリーみたいなもの。だけど、舞台では1年のことを5分間でやらなければいけない。その変化を出さなければいけない。いわゆる日常のまねをしてもダメなんですよ。
東出:材料は揃いました。あとは最高の舞台にするだけです。
(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2018年11月5日号