笈田:一作一作が完成した素晴らしい4作を1本の芝居として2時間半にまとめたのは大変なこと。脚本の長田育恵さんが非常にうまく一つの線を引っ張られて、懸命な脚色をされた。いろんな登場人物が数多く出てきますが、一人一人が違った生き方、違った死に方を選んでいる。ご覧になる方が自分の人生観と、ここに生きている人物たちとの生き方を比べていろいろ感じていただければ。

東出:笈田さんは文学座時代に三島先生に出会ったそうですね。

笈田:三島先生は若者に対して誰にでも、友達みたいに付き合って下さいました。先生ぶったり先輩ぶったりなさいませんでした。先生が演出した「サロメ」(60年)で大役をいただいた時、衣装を見たら上半身裸。「先生、僕は洗濯板だからこんな衣装は不可能です」と言ったら、「じゃあ俺の弟子にしてやろう」とボディービルに連れていかれました(笑)。以来時々ジムで会うと、「お前に肉をつけるために」とおっしゃってビフテキをよくご馳走して下さいました。

東出:演出は日本人ではなく、英国人のマックス・ウェブスターさんですが、最初に語られた言葉の中で素敵だなと思ったことがあります。僕は三島という神話を知らないでこの作品に取りかかった。そういう意味では、人間のドラマを描こうというところに最初から目的意識を持っている点で、みんなより三島の影に怯えないですむのは有利。人間ドラマを描くんだと。

笈田:僕は拠点がヨーロッパなので、これまで外国人の演出家ばかりとやってきましたが、演出家のタイプはいろいろです。装置に衣装、演出家のアイデアがすごく重要で、役者はそのためのオブジェにされる場合も多い。だけど、マックスは役者から人間を引き出して人生を表現しようとする。芝居の作り方が役者第一だから装置は簡単。役者としては非常に楽しいですし、自分はオブジェだと思わなくてすむ。役者を大事にしてくれて、自分のアイデアを押し付けるような芝居を作らない方ですね。

東出:日本人だとちょっとの言い回しに過敏になったりしますが、そこにある意味鈍感であることによって、もっと大枠で舞台表現としての流れを、俯瞰で見られるところがあるのかなと思ったので、よりドラマチックに作品は動くかなと思います。時代と三島の世界に固執しすぎても舞台としては悪い方に傾倒してしまうので、中立を保てるのはマックスならでは。

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