「怒り」「嫉妬」と対処法(AERA 2018年10月15日号より)
「怒り」「嫉妬」と対処法(AERA 2018年10月15日号より)

 怒りの導火線が短くなった。嫉妬の炎が燃え盛るようになった。不寛容社会の中で、人びとの「負の感情」が膨らんでいる。これを前向きのエネルギーに変換すれば、もっといい日々を過ごせる。人々の怒りの感情との付き合い方を取材した。

*  *  *

 東京都内のメーカー勤務(技術職・企画職)の女性(53)は、男性だらけの職場の中で上司と衝突することがよくあった。当初はストレートに問題を指摘していたが、ほどなくそのような方法では「倍返しのパワハラ」が来ると知った。男性には「プライド」があることを前提に関わり方のスキルを磨かなければいけないと悟った。

 それからの彼女は、仕事のやり方などで怒りを感じたら席を立つ。一瞬周りが怪訝(けげん)な空気に包まれるが、会議室の外にあるティーサーバーに向かい、参加者のお茶を注いで会議室に戻る。戻った時には先程までと雰囲気をがらりと変えて、こう言う。

「緑茶とほうじ茶、どちらがいいですか?」

 これが彼女の怒りに対する切り札だ。

「怒りというのは、相手と同じレベルでいるから出てくること。自分がもっと高いレベルにいればイライラすることもない」

 余裕がなくなりそうになると山や海に行き、平常心を保つようにしている。

 東京都杉並区の教育関係企業に勤める男性(53)は、以前の職場で、自分を陥れるようなウソをついた上司に対して激しく怒り、翌日人事部長に「あの人の下では仕事ができない」と、異動を訴えた。仕事ではそれなりの実績をあげていたので、結果的に異動にはならなかった。

「営業担当として数字をあげていたので、言いやすかった。売り上げがない時は文句が言えない。上司と一緒にいるだけで手に汗をかくような時期もあった。仕事の怒りは仕事で解決。飲んでも悪化するだけです」

 兵庫県西宮市に住むメディア制作・営業の女性(49)は、朝令暮改どころか朝令朝改の上司に悩まされている。取引先に既に発注済みの案件の変更を指示してくる。理由は、「その時の僕はそう思ったけど、今の僕はそう思わないから」。70代、大の大人のせりふである。そんな時、彼女はパソコンのメモ帳を開き、ひたすら上司をディスる文章を打つ。ぱっと見では何を書いているかわからないように、アルファベットで入力する。

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら
次のページ