極秘プロジェクトとして始まった「村上RADIO」。2回目の放送を前に、番組を企画したTOKYO FMのプロデューサー・延江浩氏が、作家・村上春樹の肉声と秘話をつづる。
【ラジオブースのマイクの上には、ちょっと眠そうな木彫りの猫が…】
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2018年8月5日午後7時、その声がラジオから流れてきた。初めて聴く「村上春樹」の生の声──。
リスナーは固唾をのんで耳を澄まし、放送直後からSNS上にさまざまな感想が舞った。
番組の冒頭は、無音の中で春樹さんの「声」が浮き上がるよう、少しだけ編集した。
「こんばんは……村上春樹です」
「こんばんは」と、「村上春樹です」の間隔を実際より0.6秒あけ、ちょっと不穏な感じにした。リスナーが放送に集中してくれると考えて、あえて音楽は付けなかった。
「ラジオに出演するのは今回が初めてなので、僕の声を初めて聴いたという方も、たくさんいらっしゃると思います。はじめまして」
春樹さんの声がリスナーの心に入っていく。内面の奥深いところを小説で表現してきた春樹さんの声の響きを、みんなが探り当てようとしている。村上ワールドの真実はその肉声に宿る、とでもいうように。
「ひょっとしたら、村上春樹さんにラジオに出ていただけるかもしれない」
1月の終わり、ある知り合いが「ちょっと内密な話がある」と、私の勤めるラジオ局を訪ねてきた。「どうなるか、まだわからないけど……」
春樹さんと近しい旧知の編集者が、真冬の寒い日にわざわざそんなことを相談に来るなんて、まさか、本当に……。
早速、プロデューサー、ディレクター、広報、Webマスター、営業に系列局を仕切るネットワーク担当と、大切な企画を立ち上げる時に招集する仲間たちへ内々に声をかけ、まずは春樹さんの本を持ち寄っての輪読会から始まった。
デビュー作『風の歌を聴け』にはビーチ・ボーイズの歌詞があり、『羊をめぐる冒険』ではロックバンドの名を掲げて1960年代を語っていた。最新長編の『騎士団長殺し』にもたくさんの曲がちりばめられている。