自殺防止、引きこもりからの自立支援、被災者の心のケア。悲しみや絶望などからくる不安や悩みが広がる中、さまざまな取り組みが広がっている。その結果、感情はどう変わっていくのか。自殺防止のため努力を続ける僧侶を取材した。
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岐阜県関市。臨済宗大禅寺(だいぜんじ)の住職、根本一徹(いってつ)(46)のパソコンのメールやスマホには、昼夜を問わず、SOSが届く。
「とにかくもうダメです」
「消えたい」
自殺未遂を繰り返し、死のふちに立つ人たちからの救いを求めるSOSだ。根本はバイクにまたがり、時には新幹線に飛び乗り自殺志願者のもとに駆けつける。過労とストレスから狭心症を発症し、2度手術をして医師から心臓の血管は限界だと告げられている。それでも根本は飛んで行き、本人が納得いくまで話を聞き、語り合う。そして帰り際、必ずこう伝える。
死ぬ前には連絡くれよ。勝手に死んだら怒るからな──。
伝えておくと、自殺する寸前に根本の怒った顔を思い出し、思いとどまる。そしてまた、連絡をしてくるのだという。
「ハッピーエンドになるまで離しません」
都内の一般家庭に生まれ、高校時代は「やんちゃ」だった。そんな根本が自らの命を削ってまで「自殺」と向き合うようになった活動の原点は、身近にいた大切な人の自殺だ。小学4年の時に叔父が、高校生の時に中学時代の同級生が、高校卒業後に一緒にバンドをしていた仲間が自殺した。「いのち」とは何かと考えるようになった。
仏門に入ったのは、偶然母親が新聞の求人欄に「僧侶募集。未経験者可。禅寺」と書いてあるのを見て。26歳で仏門に入り、過酷な修行を続け33歳で大禅寺の住職となった。自殺防止に取り組み始めたのは、その前年から。将来に不安を覚えて自殺願望を抱える若者たちの悩み相談に乗ったのがきっかけだった。
「スマートなんです。ネット社会になって、常に先の情報を読みつづけ、行く先をスマートにしておかなければならなくなった。それには、自分に快適でないものをどんどん排除していかないといけない。やらなければいけないことが増えていき、追い詰められてしまう」