子どもだけでなく、大人も悩ませる夏休みの宿題のひとつ、読書感想文。書けない、特に感想がないという子どもから感想を聞き出して文章にするのは容易ではないし、そもそもそんな形で提出して意味があるのだろうか?と疑問も浮かぶ。読書感想文をめぐる教育の現場や、読書感想文の攻略法を取材した。
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読書感想文の“独特のルール”についても問題があると、20年以上にわたり学校現場を取材してきた教育ジャーナリストの佐藤明彦さん(45)は指摘する。
「感想文では、思ったこと、感じたことを書くことが重視されますが、実社会でそうした文章を書く機会はほとんどありません。例えば、会社の企画書や報告書も、客観的な事実を基にまとめるのが普通。要するに、社会での再現性が低いんです」
だとしたら、なぜ感想文には自分の気持ちを書かなければならないのか。学校は、どんな点を見て評価しているのだろう。
27年間、東京都の公立小で教えた甲斐崎(かいさき)博史教諭(54)は、「感想文で教師が見ているのは“子どもの成長”です」と語る。
「評価が高いのは『主観的に書かれている』文章。批評や評論、『つまらなかった』など、ネガティブな意見はだめ。私は登場人物のこんな点に共感した、学んだなど、読書を通じて子どもに表れた『気持ちの変化』を教師は知りたいのです」
端的に言えば、読書感想文で求められているのは、分析や考察ではなく、「ぼく・わたしの成長物語」ということになる。
では、こうした目的や書き方を、学校では指導しているのか。
「個人レベルでは書き方を指導していますが、統一したマニュアルなどはありません。なぜなら学習指導要領では、読書感想文をやれとは言っていない。つまり単元として『ない』ので、授業内では教えられないのです」
指導要領にないのであれば、教員個人の裁量でやめてもいいような気がするが、「教員の独断でやめるのは、クラス間の公平性も崩れますし、難しいでしょうね」と甲斐崎教諭は語る。
ただ、学校単位であれば変えることはできる。以前、勤めていた学校では、読書感想文は自由選択制をとっていたそうだ。