東日本大震災の被災地では、住宅を津波の危険のない高台に移す高台移転が各地で行われた。宮城県女川町でも、商業地を土盛りした海に近いエリアに残しつつ、住宅地は高台に移転させた。
「高台移転しておけば、大災害が起きても、生活の拠点だけは確保できます。自宅を失うと、避難所から仮設住宅を経て住宅再建、あるいは公営住宅へ移転するのに、早くても3年はかかります。このタイムラグをなくすことでリスタートを早くできる。命を守り、財産を守るのはもちろん、全体のリスタートを早くできるのが高台移転の意義です」(女川町の須田善明町長)
いざというときに備えて、我々は何をしておくべきなのか。
災害社会学などを専門とする専修大学の大矢根(おおやね)淳教授は、自分の財産について把握しておくことの重要性を話す。
「財産というと、現金・預金や不動産がまず思い浮かびます。しかし、実は被災によって危機を迎える財産は様々です。借地権や漁業権といった無形の固定資産、生業を成り立たせるための関係資本など、生活のなかにどのような財産があるかをまず把握しましょう」
防災アドバイザーの岡部さんが指南するのは、保険などの知識を持っておくこと。
「保険のルールはわかりにくく、自分がどこまで補償されるのか正確に把握するのは難しいかもしれません。それでも、“こんなケースでも補償される場合があるらしい”といった漠然とした知識があるだけで、専門家に相談しやすくなります」
被災後の動きをスムーズにすることでトータルの被害を小さくする「事前復興」の考え方も広がってきた。東京各地で取り組みを進める、首都大学東京の市古太郎教授は言う。
「コミュニティー単位で実際に起こる災害を専門家が想定し、それをもとに生活再建などをシミュレーションしておくのが事前復興です」
事前復興の取り組みには弁護士や不動産鑑定士なども参加するので、個人の財産復旧にも専門家の知見が生かしやすい。
いつ、誰の身に降りかかるかわからないのが自然災害だ。
「災害を完全に防ぐことはできません。いかに被害を減らし、スムーズな復旧につなげるか。災害から財産を守るために、減災の考え方を持っておきましょう」(市古教授)
(編集部・川口穣)
※AERA 2018年10月1日号より抜粋
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