「受験のための授業をしてるんじゃない。受験に落ちても大丈夫な授業をぼくはしてるんだ」
親が聞いたら卒倒しそうな台詞だが、国立大に通う男子学生(19)は、浪人中、現国の講師から聞いた言葉が忘れられない。授業の半分以上は雑談だった。
「『金の切れ目が縁の切れ目の本当の意味を知っているか』。昔は物々交換で人の縁が続いたが、現代はお金を払えば関係性が終わるとか。受験に直接関係なくても、人生に役立つ話を聞いていると思った。『この人すげえ』とぞくぞくしました」(男子学生)
高校の授業は退屈で、「受験のため」に通っているようで、やる気が起きなかった。だが、彼の授業は違う。教室に退屈そうな生徒はほとんどいなかった。
自分も教師になろうと考え、大学入学後、個人指導塾でアルバイトを始めた。高校時代の教師の苦労も思い知った。
「やる気がない生徒もいて、高校の時の担任が『お前ら何のために学校に来てるんだ』って言った気持ちがわかります」(同)
予備校や塾の講師が青年に多大な影響を及ぼすのは、いつの時代も同じのようだ。
会社員女性(41)は、高校時代、ある塾の英語講師に傾倒した。圧倒的な知識に裏打ちされた明快な授業は、生徒たちの人気を集めていた。講師のひねくれ具合もツボだった。授業中、男子生徒を指名して答えさせた後、講師は彼をこう評した。
「◯◯くん、きみはとてもよくできるし、真っすぐだ。でもね、背中がガラ空きですよ」
ええっ。背中がガラ空き? 一体何の話? というか、そんなに堂々とひねくれていいの?
意表を突かれると同時に、なぜか胸が躍った。
「その先生はお世辞にもイケメンといえないし、鋭い目つきで凶悪そうな面構え。でも、他校の女子とも『好きになっちゃうよね』と盛り上がった。その塾にはもう一人、イケメンの熱血講師もいて、人気を二分していたんですけど、私は俄然ひねくれ先生派。卒業まで先生のクラスを取り続けました」(女性)