お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。
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子どものころ、大人がダジャレを言うことが理解できなかった。
私の父は無口で、普段は滅多に無駄口をきかない人だった。が、ある時ふとこう言ったのだ。
「中華にしチャイナさい…」
滅多にふざけない人が、言葉で遊んでみたのである。
その日は祖父の年忌で、法要の後、親類縁者の皆で食事に行こうとしていた。近所のK飯店に予約を入れてあったのだろう、皆でだらだらと歩き始めた時だった。私は「なぜその欲望を抑えられなかったのか」となんとも言えない気分になった。
まず、「中華にしチャイナさい」と彼は言うのだが、既に予約は入れてあるのであり、場所決めで皆がもめていたわけではないのである。つまりこれは、独り言であり、誰の発言にも掛かっていない発作的な言動。言いたいから言っていたまで。それが証拠にまわりはほとんど無視状態だった。私は憤った。お父さんが急にエッチなことをしたようなと言おうか、とにかく変わり果てた父が恥ずかしい。早くこの雰囲気が変わることを祈った。すると、遅れて別方向から、今度は叔父の一人が……
「なんちゅうか、本中華…ってな……」と呟いた。レスポンス? しかも「ってな……」とはなんだ。ちょっと格好つけてるし、まるで、解答を出したみたいな雰囲気だ。父の発作から、この親戚のT叔父さんの解答まで1分以上経過していた。なんたる無駄な時間の使い方。
しかし、ここでようやく周囲に笑いが起こる。叔母さんの一人が「やだ~」とか言うのだ。それもあながち悪い感じでもなく。そうしてようやく大人たちが緩く連帯していったのである。このスカスカ感は一体なんだ? 大人たちの笑いに関する感度の低さがどうにも解せなかった。面白いってそういうことじゃないだろ。
時はたち。近ごろ、面白すぎるものが苦手だ。何故なら日常の邪魔になるから。