人々によって守られてきた、歴史ある山々を持つ奈良県吉野。だがそんな吉野は今、山を管理する「山守」の減少など、課題を抱えている。訪れた人を魅了する吉野の自然を守るべく、地元の人が動き始めている。
【地元産の木材を使った宿泊施設「吉野杉の家」の写真はこちら】
吉野に癒やしを求めて訪ねてくる人は多い。自然環境を守りながらの雑木の庭づくりに定評のある高田造園設計事務所の代表取締役高田宏臣さんにとっても、吉野は自分を救ってくれた心のふるさとだそう。
「人生に行き詰まり、自殺を考えたときにここに来て救われたことがあります」(高田さん)
金峯山寺蔵王堂が定期的に行う体験修行に参加していたときだ。吉野の自然の素晴らしさに心を動かされたという。
吉野山にある金峯山寺蔵王堂は、1300年前に役行者が開いたという修験道の聖地だ。修験道とは、日本古来の山を神仏そのものと考える山岳信仰に神道、仏教、儒教などあらゆる宗教要素が混和されたもの。東大寺大仏殿に次ぐ木造建築だという高さ34メートルの本堂の蔵王堂には、重要文化財に指定されている秘仏、高さ7メートルにもおよぶ3体の蔵王権現が安置されている。この蔵王権現の神木として、桜の木々は平安時代以降から少しずつ植えられた。そして吉野山一面を覆うほどになった。
だが、最近はこの桜に枯れ木が目立つようになってきた。高田さんは言う。
「吉野の桜は傷んでいました。さらに驚いたのですが、桜の木を新しく植えるために、その周辺にあった樹齢何百年というたくさんの杉が伐採されていたんです」
高田さんによれば、枯れそうだからといって土の中の微生物環境が偏った中に肥料を入れても、さらに環境が変わってしまって土地を悪化させるという。もともと植わっていた杉の木を切って桜に植え替えるのも同様に悪化させる。
以前から活動を続ける大和ハウスグループの吉野山桜保全活動のメンバーとも話し合いながら、高田さんは吉野を定期的に訪れて桜の保全活動をする。硬くなった土をやわらかな土壌へと戻す環境改善だ。かつて自分を救ってくれた歴史ある自然を守っていきたいという思いが強い。