これらの様々な活動を広めていくための情報発信拠点のひとつが、大和上市駅から15分ほど歩いたところの吉野川沿いにある「吉野杉の家」という宿泊施設だ。地元の人とゲストが交流するコミュニティーハウスとしても活用されている。

 建築家の長谷川豪さんと民泊仲介大手のAirbnbが協働して設計を行い、吉野町の職人が建設した。図面ができてから約半年で完成させたという建物の1階部分は吉野杉で、2階部分は吉野の檜でつくられていて香りがいい。大きな窓からは、ゆったり流れる川を望むことができる。ちなみに、この近くの宮滝遺跡では、川沿いに聖武天皇らが訪れた吉野宮の中心的建物があったとされている。

「吉野杉の家」が川沿いに建てられたのも、訪日外国人が宿泊するなら便利さより自然豊かな場所を好むというAirbnbの希望もあったからだ。

「ただ地元の吉野杉で家を建てるだけじゃなくて、その後も宿として運用していけるのは、地元の仲間の協力があったからこそできたこと」

 と、ホストのひとりである吉野中央木材専務取締役の石橋輝一さんは言う。

 この宿泊施設を運営しているのは石橋さんや、吉野で7代目の山守として働く中井章太さんら町の木材事業者らでつくる「Re:吉野と暮らす会」だ。31人のメンバーがいる。

「いい意味でこの活動にみんな巻き込まれているんですよ。サークルの延長のようなチームワークです」(石橋さん)

 地元の強い結束があってこそ、吉野での様々なプロジェクトが始動し、継続されていく。みんな、歴史の深い吉野の自然を次の世代へつなげていくという思いは人一倍強い。(編集部・柳堀栄子)

AERA 6月18日号より抜粋