そうすれば、山中で何らかのトラブルがあったとしても、日没までに下山できる場合が多い。街灯などが一切ない山中は、日が暮れたら真っ暗闇。ヘッドランプを持っていても登山道を見失う可能性が高いし、崖に気づかず転落するなど、重大事故につながることもある。
日没後に救助要請をしても、救助活動が開始されるのは翌日の場合が多い。夏の低山ならば、暗闇で動き回るよりも、山でおとなしく一晩すごしたほうが危険は少ない。明るいうちに下山できなかった場合は、暗闇の中で一晩を過ごす覚悟が必要だ。
気をつけていても道に迷ってしまったらどうすればいいのか。水野さんは「落ち着くこと」「携帯をオフにすること」「登ること」の三つを挙げる。
まずは、落ち着くこと。水を飲んだり、食料を口に入れたりして一息つくだけで、景色が違って見える。
「迷っただけで死ぬことはありません。パニックになって動き回り余計に消耗したり、転落・滑落などの重大な事故を引き起こしてしまうことが問題です」
携帯をオフにするのは、本当にどうしようもなくなり、救助を呼ばざるを得ないときに電池切れになるのを防ぐためだ。スマホをライト代わりに使うのも避けたほうがいい。
登ること、とは?
「道に迷うと、沢筋などを下ってしまうパターンが多くみられますが、これは最悪です」
沢沿いは木々も少なく歩きやすい。下山するには当然坂を下りたい。眼下に街並みなどが見えれば余計に気がはやるだろう。そうして沢に引き込まれていくと、どこかで崖などにぶつかり、身動きが取れなくなってしまいがちだ。
「来た道を戻るのが原則ですが、それができないなら、見通しのいいところまで登ること。尾根や頂上まで登れば視界が開けますし、登山道とも合流しやすくなります」
ただし、これは明るいとき。暗くなったら、翌朝を待って行動を再開しよう。
山は、時として思いがけない牙をむく。間が悪いとしか言いようがない事故もある。
「危険を減らすため、自然の中にいるという心構えと準備をして山に入ってほしい」と石丸さんは話す。(編集部・川口穣)
※AERA 2018年5月28日号