「私の目はたぶんとても小さい。だもんで、私はNEOかわいい」「私の足はたぶんとても短い。だもんで、私はNEOかわいい」
伸びやかな声が会場に響く。弾むように音楽を奏でる4人の姿に、客席のあちこちから「かわいい」という声が聞こえてくる。4人組オンナバンド、CHAI。その原点に、容姿への「コンプレックス」があるという。彼女たちは口々に語る。
「顔が平安顔だから、今どきの『かわいい』に絶対入らない」「輪郭がはっきりしすぎて、顔の圧が前面に出てる」「私は首が長いの。ほら」
ボーカルのマナさんは言う。
「女の子って、『かわいい』って言われて、『違うよ』って謙遜するでしょ。そういうの、たくさん見てきたけど、信じない。私たちは全然『かわいい』って言われてこなかったから」
テレビや雑誌でもてはやされるのは、色白で小顔、目が大きくて細身の女子ばかり。「かわいい」は画一的すぎた。
「完璧じゃない私たちが、完璧じゃないことを『かわいい』って歌えば、響くんじゃないかなって思ったの」(マナさん)
自分をかわいいと言い切るのは、勇気がいることでは?
「音楽が『かわいい』の広さを教えてくれた。大好きなバンド、CSSのラヴフォックスはかわいいとは言えない体形だけど、彼女が歌う姿をすごいかわいいって思ったんだ」(同)
毎日お互いを褒め合い、鏡を見て「かわいい」と言う。「思い込みがホントになってきた感じ」と彼女たちは笑う。彼女たちと音楽がまとう「かわいさ」は、人の心を弾ませる。
かわいいとは何か。大阪大学大学院の入戸野宏教授(心理学)は、「美醜の物差しではなく、対象との関係を表す」と語る。
「『かわいい』は、対象に近寄りたいという気持ちの表れ。つまり、かわいいとは、作るものでも作られるものでもなく、発見するものです」(入戸野教授)
外見的な美醜の呪縛に、真っ向から闘いを挑む女性もいる。分子生物学を研究する学生作家でクイズ番組でも活躍する篠原かをりさん(23)だ。彼女にとって、女子校時代、容姿や美しさは個体差に過ぎず、重要ではなかった。それが崩れたのは、クイズの世界に入ってから。大半を男性が占めるコミュニティーで、呪いの言葉が発動した。