城戸教授はさまざまな企業や分野の違う研究者と協力して、新プロジェクトを進めている。現在取り組んでいる研究テーマが、白色有機ELを活用して睡眠の質を高められないか、ということ。従来の照明ではまぶしくてストレスを覚える人もいるが、有機ELは面で光るため、まぶしくない。スペクトル(光の成分)も自然光に近い。
「いわば照明器具と感じさせない照明。障子の和紙から、太陽光を取り込むイメージです」
脳科学者と一緒にレム睡眠、ノンレム睡眠時の脳波を測るなどして、入眠しやすい条件を探っているという。
3月で博士課程を修了し、米国パデュー大学に研究員として派遣される予定の渡邊雄一郎さんは、千葉から山形へやってきた。東京工業大学附属科学技術高校2年生の時、科学技術振興機構主催の「サイエンスキャンプ」で城戸教授に出会った。
「自分の作った分子が光った時には、感動しました」
有機ELに魅了された渡邊さんは、首都圏の大学を捨て、迷うことなく山形大学に進学。
「1年生の時には毎月10万円弱の仕送りをしてもらいましたが、十分な金額でした。生活費も安く、研究の本が多く買えました」
3年次からは給付型の奨学金を受け、仕送りなしで過ごした。大学院の時には日本学術振興会の特別研究員としてパデュー大学に留学。ノーベル化学賞受賞者の根岸英一博士と交流を持ち、研究者としての薫陶を受けたという。渡邊さんは、山形大への進学は100%正解だったと言い切った。そして城戸教授も口をそろえる。
「大学は何を学ぶか、どんな研究をしたいかで選べば、より面白い勉強ができるはず」
(ライター・柿崎明子)
※AERA 2018年4月23日号より抜粋