「特定地域内(概ね東京23区を指す)の大学等の収容定員の増加を禁じる法律案」の影響で、定員が厳格化。私立大への入学がより難しくなった。しかし、地方に目を向けると、魅力のある大学はまだまだある。例えば山形大学には、ある分野で世界最大の規模を誇る研究室がある。
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日本の田舎で暮らすお年寄りとニューヨーク在住の孫が、すぐ隣に住んでいるかのように会話する──。山形大学有機材料システムフロンティアセンター(米沢市)の城戸淳二教授が研究する技術を使えば、近い将来こんな暮らしが実現するかもしれない。1993年に世界で初めて開発に成功した「白色有機EL」だ。現在、照明やテレビ、スマホ画面などに使われている。
そもそも有機EL(Electro Luminescence)とは、発光素子のこと。簡単に言うと“光る物質”。有機化合物から成る有機ELをプラスチックなどに塗り、電気を通すと発光する仕組みだ。液状にして塗布した白色有機EL自体が発光するので、非常に薄く、軽量化できる。
「テレビのスクリーンだってペラペラに薄くできるので、ポスターのように丸めて持ち運べますよ」(城戸教授)
冒頭のシーンも、壁紙の一部に白色有機ELを塗布することで可能になる。最高8Kレベル(現在のデジタルテレビ放送の16倍の画質)の画像が等身大で映るので、生身の人間がそこにいるかのような臨場感だ。壁紙ディスプレーは離島での遠隔診療などにも利用できそうだ。
白色有機ELは学生の失敗から生まれた。光は赤、緑、青の3原色を混ぜると理論上は白色になるが、有機ELはその3色を混ぜても赤色にしかならないのが当時の常識だった。ところがある日、学生が「失敗しました」とおそるおそる持ってきたものが、白っぽいピンク色。赤色色素の濃度が低いことを見抜いた城戸教授は混合濃度の試行錯誤を重ね、白色有機ELを誕生させた。今や城戸研究室は有機EL研究室として世界最大規模を誇り、ドイツ、アメリカ、中国や韓国などから米沢に研究者が集まる。