旨い肉は牛だと思い込んでいるアナタ。幅は広く、奥が深いのが肉の世界。ほら大自然を走るあの猪も、あの鶏も……。肉の新世界にご招待。
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ジビエこそ、近年最大の肉トレンドかもしれない。中でも東京・目白の「ジビエ料理 アンザイ」は正真正銘、出所のはっきりした猪や鹿を食べさせる。というのも、店主の安西康人さん自ら、静岡県浜松市の実家裏の里山まで猟に出て、獲物を仕留めてくるからだ。現に安西さんの名刺の肩書は「猟師」となっている。しかも、実家には工房も設けて解体処理までする。安西さん曰く、ジビエのおいしさは処理で決まるのだとか。
「動く獣を銃で撃つと、どうしても急所を一発で仕留めるというわけにはいかない。弾が入った周囲は、被弾のダメージで血が集まり、臭みの元となって食肉として使えなくなってしまうんです。罠で捕らえたほうが確実。捕獲や解体にかかる手間や経費等を考慮して単価もなんとか設定しますが、そもそも家畜とは単価が違って当たり前です」
狩猟は父の趣味で、「子どもの頃から身近だった」という安西さん。大学進学から東京に出て、大手メーカーの子会社で会計の仕事をしたり、秋葉原でメイド喫茶やメイドリフレ店の経営もしたりしたが、30代半ばでいったん実家に戻る。そこで急に時間を持て余し、狩猟免許を取得。元来凝り性で、趣味でやるくらいなら究めようと、昼間は狩猟をしながら夜は塾講師という生活をしばらく送り、11年8月、満を持して目白の住宅街にアンザイを開店した。
今回は珍しいウリ坊の脚のローストと、客が自身で練り、たこ焼き器でミートボールにする鹿のミンチを堪能。どちらも臭みは一切なく、ほんのり山野の草木の香りがした。特にウリ坊の脂の旨みはこたえられない。
安西さんによれば、山谷を駆け巡る本物の自然食だからこそ、「猟から手がけたいという若者も徐々に増えている」そうだ。そこで今後は後進の育成も視野に入れ、業容の拡張も考えているという。(ジャーナリスト・鈴木隆祐)
※AERA 2018年4月16日号より抜粋