「どうしたら文楽が身近な存在になるか、思いついた言葉やアイデアを5年前からエクセルに入力していました。本の企画が決まったときには削るのが大変になっていて(笑)」

 本書はまた、大阪ガイドブックとしても読める。

「私自身、国立文楽劇場にも近いミナミで生まれ育ち、大阪への愛情が強くあります。大阪は人形浄瑠璃が生まれた街であり、近松門左衛門の『曽根崎心中』や『女殺油地獄』をはじめとする名作の舞台でもある。古い地名も残っていて、文楽散歩も楽しめます」

 本書は、通常の四六判の単行本より一回り大きい。カバーの浅葱色にタイトル、著者名が映えるのは文字が黒一色のように見えて、箔押しだから。本文も迫力ある舞台写真やイラストがスタイリッシュにデザインされている。

「襲名披露の発起人でもあり長年の付き合いがある、第一線で活躍されている方々にサポートしていただきました。『織太夫被害者の会』というか、巻き込まれた人たち(笑)。おかげで納得のいく本になりました」

 文楽と大阪への愛が詰まった、文楽入門の決定版が誕生した。(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年4月9日号