ここまで紹介した櫻田社長のエピソードは設問(5)のビジネスで参考にした「歴史上の人物や出来事」だ。回答をみると、重要な判断を下したり、中長期の指針を定めたりする際に、言葉を手がかりにする経営者が多い。
三井住友海上火災保険の親会社MS&ADインシュアランスグループHDの柄澤康喜社長は幕末・長岡藩の軍事総督、河井継之助の言葉「不遇を憤るような、その程度の未熟さでは、とうてい人物とはいえぬ」を挙げる。「会社経営において厳しい局面に立ったときでも一喜一憂せずに、ビジョンやバリューに基づいて、ぶれずに進めばよいという腹が据わった」
全日本空輸を傘下に持つANAHDの片野坂真哉社長は西郷隆盛の言葉「功ある者には禄を、能ある者には職を」から、「人事部長時代、社員の配置や処遇について、一つの指針を得た」。
太陽生命保険や大同生命保険の持ち株会社T&DHDの喜田哲弘社長は「三方よし」。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という近江商人の心得だ。これが「21 世紀の資本主義」だと考える。「より長期的な視点を持って、すべてのステークホルダー(利害関係者)を大切にし、ご満足いただくことではじめて『持続的・安定的な経営』が成り立つ」
日本人の歴史愛好家は「ヒーロー(ヒロイン)が好き」なのが特徴だという。経営者はどうだろうか。設問(1)のもっとも好きな「歴史上の人物」の回答をまとめると、坂本龍馬と徳川家康が2人ずつ。それぞれ理由に「新しい時代の明確なビジョンを持つ」(スズケンの宮田浩美社長)、「先見性」(MS&ADの柄澤社長)を挙げることから、龍馬と家康は未来を予測しようとする姿勢が似ているのかもしれない。
ともあれ時代は飛鳥時代の聖徳太子(厩戸王)から昭和の石原莞爾(旧陸軍の関東軍作戦参謀)までと幅広く、国も日本にとどまらない。聖徳太子について、大和ハウス工業の樋口武男会長の考えは明確だ。