回答を時代で区分すると、近現代に偏る。江戸時代よりも前の出来事を挙げたのはT&D喜田社長の「千早城の戦い」のみだ。
もうすこし詳しく見ていく。明治維新では東京海上日動火災保険の北沢利文社長が保険法の制定に携わった際に、「100年以上も前に英・独の保険を学び、日本の商法の法文を定めた当時の方々の熱意と研究心に感銘を受けた」とする。経営者の立場として、先進的な技術や仕組みの導入には積極的だ。
SOMPOの櫻田社長も「身分や年齢を重視した封建社会を一挙に否定した革命だった」と答える。企業活動をするうえで不公正を嫌い、自由競争を求める経済人らしい着眼点だと感じられる。
第2次世界大戦では、丸紅の國分文也社長がこう記す。「近代における技術革新によってもたらされた世界規模での経済発展の裏で、領土や資源問題、組織、変わらない人間の性(さが)といった、さまざまな矛盾が凝縮されていくなかで起こった」
注目すべきは「矛盾」という言葉だろう。矛盾が凝縮されたなかで起きた戦争。そこで現れた「本質」に関心を示す。
先の大戦で、日米が死闘を繰り広げた西太平洋のガダルカナル作戦に絞って回答した東京電力HDの小早川智明社長は、野中郁次郎・一橋大学名誉教授が旧日本軍の「情報の貧困や戦力逐次投入のまずさを指摘している」としたうえで、「現地現物経営の重要性を思い知らされる史実として教訓にしている」。
好きな人物と違って、出来事は企業経営の現場で備えが必要な「事件」に似通ったことが選ばれやすかった。未来は、簡単には見えない。それなら、過去を手がかりにしてみる。消費者の要望の変化がいくら早まったとしても、その思考は不可欠なのだろう。三菱ケミカルの越智社長はこうまとめる。
「歴史は人にヒントや新たな考え方を与えてくれる」だから歴史はビジネスに効く。(編集部・江畠俊彦)
※AERA 2018年3月12日号より抜粋