羽生結弦(23)が平昌五輪のフィギュアスケート男子シングルで金メダルを獲得、66年ぶりの連覇を達成した。昨年11月のケガから見事に復活。その原動力となったのは、ブライアン・オーサー(56)との世界最強タッグだ。
2012年の春、羽生からコーチのオファーを受けた時、オーサーは正直、驚いたという。自身が率いるチームには、羽生と力が拮抗(きっこう)するライバル、スペインのハビエル・フェルナンデス(26)がいる。わざわざそこに加わるのか、と。トップ選手は普通、「自分だけを見てほしい」と思うものだ。半信半疑で、都内でセッティングされた顔合わせの会食に出向いた。
まだ英語を流暢(りゅうちょう)に話せなかった羽生は、会食のあいだほとんど黙ってうつむいていたが、最後に、言ったという。
「僕はトロントにいって、ブライアンと練習したい」
その目の輝きに一目ぼれしたとオーサー。2年後のソチ五輪、6年後の平昌五輪への長い道のりを共に歩む決心をしたという。
羽生と練習を始めた当時のことは、いまも鮮明に覚えている。
「とにかくジャンプの才能が素晴らしい。身体は細身でしなやかでジャンプに向いているし、無駄な力を使わずに跳ぶ。ハビエルには天才的なバネがあるが、結弦のなめらかな4回転は、見たこともない美しさだ」(オーサー)
夏の間、基礎スケーティングを徹底すると、
「日増しに滑りの伸びやかさや、ターンの柔らかさが増していく姿をみて、吸収力に驚かされました」(同)
彼らにとっての「折り返し地点」である14年ソチ五輪で金メダル。15-16年シーズンには4回転サルコウとトーループを武器に、世界で初めて総合300点を超えた。
16-17年シーズンに、男子フィギュアが4回転を何本も跳ぶ新たな時代に突入すると、オーサーと羽生の間には、衝突も起きた。
例えば、4回転ループを導入するか否か。
「4回転ループを入れることで、演技がおろそかになってはいけない。新しいジャンプに集中するのは、王者がやるべきことではない」
と諭すオーサーに、羽生はこう説明した。