日本銀行が16年2月に導入したマイナス金利政策をきっかけに、預金と融資の金利差が極端に小さくなった。銀行は創業以来の「本業」である融資で儲けられない。場合によっては赤字を膨らます苦境に陥った。
生き残りを賭け、みずほは従業員1万9千人と国内100拠点を減らす。削れる経費は1千億円台半ば。併せて進める新たな収益源の開拓で、坂井氏の経歴に注目が集まる。証券社長の前にFGの投資銀行ユニット長、国際ユニット長を歴任した。
「強みがある分野を国内外ともに推進する。そうメッセージを発したと言えます」(格付け会社S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの杉原健介氏)
まず大企業と融資で取引を始め、債券や株式の引き受けといった手数料収入につなげる──そんな作戦だ。「本業」から証券事業に軸足を移すともいえる。まさに坂井氏の経験が存分に生かせる。
金融庁の試算では24年度、地域銀行の6割が融資をはじめ顧客向けサービスで赤字に転落。みずほ経営幹部は、フィンテックやAIといった技術を活用するなどして、「それまでの7年で成果を上げたい」と意気込む。
だが現状は厳しい。本業の儲けを示す業務純益は今年度前半で昨年度よりも4割減った。三井住友FGの1割増などと比べると、大きく見劣りする。S&Pの杉原氏は、金利が低い大企業向け融資の比率が相対的に高いことを要因のひとつに挙げる。
「規模の大きさを収益に結びつけるのは難しい」(杉原氏)
だからこそ、坂井氏に向けられた期待は大きい。「常に自分の意見を言い続けてきた。一人で何でもできる人。安心して、ついていけます」。みずほ中堅幹部が評する。いったん仕事を離れると屈託なく、坂井氏本人は物事に頓着しない性格と自覚する。その至らなさをフォローしてくれる妻に感謝を忘れない。
読書が趣味で、同じ兵庫県立神戸高校に通ったことから、村上春樹がとくに好き。新時代の経営者のもとで、旧態依然とした銀行は姿を消す。(編集部・江畠俊彦)
※AERA 2017年1月29日号