歯は小さな砂や髪の毛一本をかんでも、その異常を感知する、敏感な感覚器官でもある。その鍵となるのは歯根膜。歯の歯根の表面(セメント質)と歯が埋まっている骨(歯槽骨)を結び付ける厚さ約0・3ミリの結合組織だ。かんだときに歯にかかる力を吸収・緩和するとともに、その感覚を脳に送っている。
「歯は食事の際などに歯根膜を介して、約0・1ミリの範囲内で動きます。かみ合わせも約0・1ミリまではからだが許容しますが、それを超えると痛みなどの問題が生じやすいのです」(同)
玉置歯科医師らはかみ合わせを意図的に高くした被験者に、歯ぎしりをさせ、脳の血流の変化を光トポグラフィーという機器で調べた。その結果、脳の前頭前野の右側の血流が活発になった。これは正常なかみ合わせのときにはみられなかったという。
前頭前野は「脳の司令塔」といわれ、高度な精神活動をつかさどっている。記憶や感情、行動に関わり、「いつもと違う刺激」に敏感だ。中でも右側はストレスなどに対する反応が強く出ることが報告されている。
「私たちはかみ合わせを高くし、歯ぎしりをしてもらった被験者の心拍数を測定する実験もおこないました。その結果、明らかに心拍数の上昇が見られたのです」(同)
心拍数の上昇はストレスや不安のあらわれだ。かみ合わせの異常が続くと、脳が不快な状態を感じ、このような変化が生じていると考えられるという。
かみ合わせの違和感が生じる原因の一つは、前述のように補綴治療によるものだ。詰めものやかぶせものをした後、歯科医師が高くなった分を削るが、中にはこの調整がうまくいかず、正しいかみ合わせになっていない場合がある。
■早めに歯科医師に相談することが大事
徳島大学病院かみあわせ補綴科科長の松香芳三歯科医師は、こう話す。
「歯の治療後、1週間以内に違和感がある場合は、再度、歯科を受診し、その症状を伝えてください」
なお、歯並びが悪い場合やむし歯や歯周病で歯がグラグラしていたり、歯を失っている場合も、かみ合わせが悪くなり、違和感を生じることがある。この場合、原因となる病気の治療をすれば症状はよくなる。