●岐路に立つ国際協調主義 日本の「戦後」変えるか
名門の家柄を背景に政治の道に入り、大きな挫折を力に変えて推進力を得た安倍氏と、東西冷戦の終結を背景に政治に目覚め、こつこつと権力固めをしてきたメルケル氏。まるで競い合うかのように同じ時代を生きてきた2人だが、権力の頂点に長く居座るほど、おごりも出て、政敵も増える。絶対的な権力に陰りが出るのは当然だ。
そして、世界構造も劇的に変化した。日独とともに国際協調主義の先頭を走ってきた米国が、トランプ大統領の登場で、自国第一主義へ大きくシフトしたからだ。単独主義傾向が強いロシアや中国が世界で影響力を強める中、欧州でも英国が、国際協調の象徴でもあるEUからの離脱を決めた。オランダやフランスでもEU離脱や反移民・難民の動きが活発化し、選挙では、そうした政策を掲げた右翼政党が躍進。今回のドイツ総選挙でAfDが台頭したのも、その傾向が衰えていないことを示している。
かつての民主主義国家vs.共産主義国家という対立構造に代わり、国際協調vs.自国第一という新たな対立へのパラダイムシフトが起きている。戦争の反省を教訓に、あくまでも国際協調にこだわるメルケル氏は同主義の旗印となった。盟友のマクロン仏大統領の支持率が急落する中、メルケル政権の今後がどうなるかは、国際情勢に極めて大きな影響を及ぼす。
そして日本も揺れている。地理的に中ロに囲まれ、究極の自国第一主義を貫く北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中にあって、最大の同盟国・米国の急激な方向転換は、戦後一貫して協調路線を唱えてきた日本の立ち位置を激しく揺さぶる。安倍首相の代名詞になった「戦後レジームからの脱却」が、現状で意味するものは何なのか。世界の権力構造が激変する中で行われる今回の総選挙は、「戦後」を強く意識してきたこれまでの日本の姿を大きく変えかねない選挙になる。(編集部・山本大輔)
※AERA 2017年10月16日号