●新興の右翼政党が国政第3党の衝撃
議席を最も増やしたのは、国政で初の議席を獲得した「ドイツのための選択肢(AfD)」。本誌が3月、反難民を掲げて拡大する欧州の極右サークルの一つとして紹介した新興右翼政党だ。議席を一気に94まで増やし、第3党となる大躍進を見せた。ナチスの反省を戦後復興の礎としてきた同国で、強いナショナリズムをうたう政党の連邦議会入りは、戦後の混乱期を除いて初めて。メルケル氏が選挙後、「我々への挑戦」と強い口調で危機感を示したAfDの台頭は、すでに難航すると予測されているメルケル氏の今後の政権運営にとって、強烈な向かい風となることは間違いない。
そして、10月22日には日本で総選挙が投開票される。「大義がない」と野党各党から批判されながらも、勝機を感じて解散総選挙に打って出た安倍首相だったが、自らが率いる自民党内の楽勝ムードは公示前にして早くも消え去った。日本初の女性首相就任を狙って、すでに「日本のメルケル」とも呼ばれ始めた小池百合子東京都知事が解散直前に立ち上げた新党、「希望の党」の勢いを無視できなくなったからだ。
希望の党の発足は、安倍政権の宿敵の最大野党・民進党を事実上の解党に追い込み、その議員の多くを吸収する形で急激な政界再編を起こした。小池氏の人気が、新党の勢いをさらに加速させている。解散当日の9月28日夕、安倍首相が最初の街頭演説で、「新党ブームからは決して希望は生まれない」などと対決姿勢をあらわにしたのも、強い危機感の表れだ。
メルケル、安倍両氏の前に突然立ちはだかった新興勢力の台頭の背景には、時代のうねりが見え隠れする。既得権益や既成政党を嫌う有権者が沈黙を破って声を上げ始め、新興勢力に期待を託すことで、失った生活水準や価値観を取り戻そうとする傾向が世界各地で一気に顕在化している。
昨年6月の欧州連合(EU)離脱をめぐる英国の国民投票以降、この1年半でG7参加国のうち英米伊仏の4カ国のリーダーが、こうした時代の潮流にのみ込まれるように、次々と交代していった。日独も、時代の波をかぶるのか。それとも大きなうねりに抗(あらが)って安定政権を維持できるのか。いまやG7の顔となった両首相の行く末に、国際社会の関心が集まっている。