教育歴不足が認知症のリスク要因となる理由として、「脳予備能」「認知予備能」という仮説があります。「予備能」とは、老化や損傷などによって脳が病理的に変性してしまったときに、脳の機能を保つ防御的な能力、耐性のことをいいます。「脳予備能」は、脳の物理的な大きさ(容積、重量など)がもたらす耐性を指します。単純に、脳の神経細胞の数や神経細胞のつながりの数が多く、脳が発達している人ほど、脳の変性に対して耐性があるということです。「認知予備能」は、認知機能の高さ、教育歴、知的な職歴、充実した余暇活動、運動習慣などがもたらす耐性を指します。元の認知機能が高く、日頃から知的な活動を通して脳を使っている人ほど、脳の変性に対して耐性があるということです。
アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病による脳神経の変性が原因で、引き起こされる認知機能の障害です。一方で、神経病理的にはアルツハイマー病になっていたとしても、認知症の症状が見られない患者さんも存在するのです。このような、アルツハイマー病になっても認知症を発症しない人たちは、「脳予備能」や「認知予備能」が高いということがわかっています。
オンライン習慣によって、脳が本来発達するはずのところまで発達しきらなかった子どもたちは、「脳予備能」が低く、それだけ将来の加齢にともなう脳の萎縮に対して脆弱である可能性が考えられます。また、成人期のオンライン習慣によって、前頭前野を使わない生活習慣を送っている人たちは、「認知予備能」が低く、脳の萎縮に対して脆弱であるといえるでしょう。
■リスク要因(2)うつ病とSNS
オンライン習慣とうつ病の関係については、インターネットが普及し始めた1990年代当時から、米国のキリバリー・ヤング博士らによって指摘されていました。
その後、世界中で同様の研究結果が報告され、2004年から11年の間に四つの国と地域で行なわれた八つの研究結果を統合した研究でも、インターネット依存傾向とうつ病の有病率の関係が示されています。