演技を終えた直後、思わず「しょうがねえ」とつぶやいた羽生は、口を横一文字に結んだまま、世界各地から駆けつけたファンに申し訳なさそうに頭を下げた。フリーの得点は155.52点。総合では268.24点となり、フェルナンデスに逆転優勝を許した。
だが、記者のインタビューを受けながら、すぐに原因を分析したあたりは、実に羽生らしい。
なぜショートで力を発揮しながら、フリーではミスを連発したのか。集中力の持っていき方に差があった、と羽生は言う。
●いいショートのあとは
ショートが行われた日の朝の公式練習では、三つすべてのジャンプをミスするボロボロの状態だった。しかし、羽生は落ち着いていた。
「スケート人生のなかで100回以上試合をやっているので、自分がどういう時にいい演技ができたのかを振り返り、世界選手権のフリー(の精神状態)を参考にしました」
昨季の世界選手権ではショートで5位と出遅れながら、フリーでは、「(世界最高の)110点や220点にとらわれず、一つ一つの技に集中しよう」と考えることでパーフェクトな演技。逆転優勝を飾っている。
同様に、オータム・クラシックのショートでも、記録は考えず一つ一つの技を丁寧にこなすことに集中してパーフェクトの演技を見せた。
こう振り返る。
「世界選手権を参考に試した集中の仕方がしっかりとハマりました」
ところが、フリーが行われた日の精神パターンは違った。
「いいショートのあとのフリーが難しい、というのは分かっていたのですが……」