22年4月改正の自然公園法では、国立公園や国定公園でクマなど野生動物へのエサやりや接近行為をやめない人に30万円以下の罰金が科されることになった。
「北海道の知床国立公園では、観光客がクマを近くで撮影したいがためにエサでおびき寄せる行為が長い間、問題になっていました。エサを与えられ人間を恐れなくなったクマは市街地に出没する危険性もあり深刻な問題です」
顔面を爪でやられた猟師
安島さんは漫画を描くために北海道での狩猟に同行し、ヒグマに襲われた猟師から体験談も聞いている。
ヒグマが走る速さは時速50キロ以上といわれる。1秒に約14メートル、4秒もあれば55メートル強の距離を移動できてしまうことになる。
「恐ろしいのは、ヒグマの圧倒的な筋力と鋭い爪です。話を聞いた猟師によると、倒木のかげに隠れていたヒグマと出合いがしらに遭遇した際、彼は反射的に銃を撃ちました。が、顔面を骨ごと爪でやられ、あごが皮一枚でぶらんとぶら下がっている状態だったそうです。お会いしたときはお元気で、すでに顔もきれいに治っていましたが、ゾッとする話です」
クマとの遭遇は、山に限らない。
今年は例年より雪解けが早い。冬眠明けのクマの活動が活発になっているせいか、4月に入り北海道ではクマの目撃報告が増えている。市街地である札幌市内にも出没している。
そして、北海道で注目されているのは、怪物ヒグマ「OSO18」の存在だ。
最初に出没が確認されたのは2019年の夏、北海道川上郡標茶町(しべちゃちょう)で牛が襲われた。これまでに牛60頭以上を襲撃しているといわれるが、警戒心が強くカメラにとらえられたのもわずか数回。北海道庁は、最初の被害現場である標茶町オソツベツと幅18センチの大型の足跡から、「OSO18」と名付けた。
安島さんが描く『クマ撃ちの女』の連載が始まったのは、2019年1月。「OSO18」の出没と同じ年だ。安島さんの連載のほうが数カ月早く、「片耳のヒグマ」のモデルではないという。それでも、怪物を思わせる不気味さなど重なる部分がある。
「OSO18」伝説化に疑問
安島さんは、OSO18はどのようなヒグマだと推測するのか。
「OSO18については、被害が牛にとどまっているのが救いです。僕の漫画よりインパクトのあるヒグマは登場しないで欲しいですね……。ただ、OSO18は『頭がいい』、神出鬼没な『忍者グマ』など伝説化されていますが、僕の知り合いの猟師たちは、ごく普通の臆病なクマではないのかと見ていますね。カメラで姿を捉えられないのも、カメラを避けているというより、臆病で人間に近づかないから結果として姿が捉えられてないだけ。猟師から見れば、ごく普通のヒグマではないか、とのことです」