安島さんも同意見だという。広大な自然と野生の動物を相手にする猟師は、分析を一つ誤れば死に至る可能性もある。うわさやイメージに惑わされず、ヒグマが木に残した爪痕やフン、足跡など、現実にあるものを冷静に分析して判断する。

「ただ、不思議なのは、60頭を超える牛を襲っているのにほとんど食べてないところですよね。クマって肉食のイメージが強いと思いますが、実は、全体の7割は植物性の食べ物を口にしています。出産や冬眠明けの春は、フキやセリ科の草本類、去年に落ちたドングリなどを食べます。そのため山菜採りに来た人と遭遇する事故が起こるんです」

 初夏には、植物や果物を摂取しつつもアリやザリガニ、セミの幼虫、スズメバチなど動物質のものも食べる。

 山に食料となる動植物がなく家畜を襲って食べるクマの話はよく聞く話だが、OSO18は襲った牛をほとんど食べず放置している。何を目的に襲うのかかがわからない。そこは「ミステリアスだ」と安島さんは首をひねる。

怖いクマはヒグマだけじゃない

 ただ、ヒグマだけが恐ろしいクマではない、と警鐘を鳴らす。

「本州や四国に生息するツキノワグマも、とても恐ろしいです。体が小さい分、立木や倒木のかげに隠れやすい。ヒグマは200メートル先に人間を見つけたら逃げるほど、基本的には臆病だといわれますが、ツキノワグマは逆に人に寄ってくる、好戦的だといわれています。クマが怖いのは、表情が読めない動物という点です。目の上に筋肉がないから無表情。怒っている、興奮している、怯えているといった様子がわからないから怖いんです。クマは人慣れした牧場や動物園のクマが当たり前なのではなく、本来、恐ろしいものだということを、漫画を通じて読者に知ってもらいたい」

 新潮社のウェブ媒体「くらげバンチ」で連載を続ける『クマ撃ちの女』は、紙と電子コミックで現在10巻まで発売されている。合わせて約40万部。30代の男性がメイン読者だという。

 ただしサイン会を開けば、女性読者の姿も目につく。

 何より、動物園や牧場、猟師や銃砲店などへの緻密な取材を下地にした作品には、関係者のファンも多い。ベテラン猟師からは「よく描けている」、若手ハンターからは「バイブルにしています」とエールをもらうこともある。

 ウェブ連載だけに、読者の反応もダイレクトだ。

「狂暴に描くなんてクマがかわいそう」

 ウェブには、そんなコメントが書かれることもある。しかし、安島さんは、こうきっぱりと話す。

「クマも人間も自然の一部です。けた外れの筋肉と爪と牙を持つ最強動物のヒグマを相手にするのです。猟銃が当たらず車がなければ、シカや他の動物以上に人間はもろいのは当たり前です。この漫画を読んでくれた人が、カメラで撮影したいがために接近したりエサをあげたりしようと思わないくらい、迫力のある漫画を描きたい。そして狩猟の世界のいいところも悪いところも、清濁併せ呑んだクマ撃ちの世界を描いてゆきたいですね」

(AERA dot.編集部・永井貴子)